坂野慎二先生:教育改革の日独比較Vol.3:中学校の制度設計

2015.11.13

前回は小学校の学級編制が、年齢を基本とする日本と、発達を基本とするドイツ、という視点を示しました。今回はどの国でも課題の多い中学校について、考えてみましょう。

1.日本の中学校―部活動の役割―

日本では中学生の自殺という痛ましい事件が起きています。思春期の中学生が安心できる居場所をつくることが重要な課題です。居場所といっても、その基本は人間関係です。学級が安心できる場所であれば良いのですが、必ずしもそうとは限りません。自分の学級で居心地の良くない場合、中学校では部活動という別の居場所を提供しています。
部活動は、1年生から3年生までの「縦社会」で構成されています。異なる人間関係の中で、社会に出て行くときに必要な、場合によっては不合理な規則に従うことが求められます。そうした中で、「努力」や「がまん」といった価値を学んでいきます。中学校の思い出を尋ねると、部活動と答える人も少なくありません。教員の方も、授業中とは異なる生徒の一面を知ることができ、生徒指導に活かさすというお話しをよく伺います。

2.ドイツの中学校―機能の分化―

ドイツの中学校は学力によって学校の種類が異なります。大学進学をめざすギムナジウム、大学に進まずに手に職をつけるコースに進むハウプトシューレや実科学校といった種類があります。日本の高校のように、ある程度学力が近い生徒の集まりとなります。すべての生徒を受け入れる総合制学校という種類もありますが、あまり普及していません。中学校からは「能力に応じて」学ぶことが基本となります。
ドイツの中学生の学級以外の居場所はどこでしょうか。ドイツでは部活動はありません。授業以外は社会教育の領域です。スポーツクラブや音楽活動は、学校以外での地域の活動です。しかし、放課後をうまく使えない中学生もいます。このため、「PISAショック」以降、部活動に似た「放課後活動」を16時くらいまで行う「終日学校」が増えています。サークル活動のようなものや、勉強に関連するものなど、幅広い内容が提供されます。宿題を支援してくれる活動もあります。

3.考える視点

中学生の居場所づくりは重要です。ドイツでも学校を活用した活動が増えています。そこで指導する人は教員以外の人もいます。教員の場合は、授業時間が軽減されます。日本では教員が授業に加えて部活動の指導も行っています。このため、教員の負担が大きくなっています。「チーム学校」で提案されているように、仕事の割り振りをしっかりとしたいものです。「場所」としての学校を活用しながら、人の「ネットワーク」づくりが重要になっていくでしょう。

[関連文献等]

  • 国立教育政策研究所(2014)『教員環境の国際比較 - OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2013』明石書店
  • 中央教育審議会初等中等教育分科会「チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業部会」
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/052/index.htm

(教授 坂野慎二)