観光と環境と教育

2013.09.09

寺本研究室では、目下、観光の教育力に関心を持っています。6月29日(土)は日本地理教育学会例会(東京学芸大にて開催)にて「地理教育が主導する観光の授業」と題した公開シンポジウムを寺本がオーガナイザーとして開催しました。小学校と中学校の観光を題材にした実践を2本、理論的な発表を1本用意し、高校の先生と大学の先生にコメンテーターを依頼しました。驚いたことに例会にもかかわらず、参加者が60名を超え、このテーマへの関心度の高さを実感しました。地理教育では、伝統的に地図や景観、時刻表など地理的スキル育成を重視していますが、観光が格好の地理教材になりうることが分かりました。また、観光開発と観光地の環境保全の問題、なども地理教育の問題解決学習のテーマとして適していることが再確認されました。さらに観光産業そのものに関しても地理や社会科の学習対象として可能性に富んでいることが認識され、今後の教材開発の必要性が浮上してきました。

当日は、観光系の学部教員や観光の専門学校の教員も参加され、単なる学会の月例会のレベルを超えた熱心な厚みのある討議が出来ました。

昨今の世界文化遺産への富士山の指定も観光教育を考える上でよい題材です。恥ずかしいことですが、わたくしも富士信仰や富士吉田口の登山口が江戸時代から発展していたことは知っていましたが、湧き水の場所や溶岩洞窟など、多くのその他の信仰の場はほとんど知りませんでした。三保の松原に至っても羽衣伝説は知っていましたが、富士信仰との関係は知識が不足していました。このように富士山の文化的価値について多くの日本人もそれほど深い意味があったなんて知らなかったのではないでしょうか。観光とは、そういった未知の優れたモノや場所を見に行くことを主にした空間移動です。学びと同様なのです。世界遺産から学ぶ示唆は、人類の知恵や自然の叡智に関わる内容です。世界遺産を見に行きたいと観光心も湧き上がってきます。初等中等高等教育界において世界遺産学習の一層の進展を期待したいところです。

さらに7月6日(土)7日(日)にびわこ成蹊スポーツ大学にて開催された日本環境教育学会においても分科会「観光の教育力と環境教育」をわたくしは主宰しました。二日目の午後でしたので参加者は数名と少なかったのですが、熱心な討議ができました。観光はエコツアーという極めて教育効果の高い環境教育と親和性が高い領域です。これまでのマスツーリズム(団体観光旅行)の時代から個人旅行の時代に移行しつつあり、環境倫理や環境保全行動が求められています。観光は学習者にとって興味・関心を引き付ける魅力を有しています。大学院の研究テーマとしても今年は院生の一人により持続発展教育(ESD)が選ばれており、ESDの中にも持続可能な観光が入っています。ですから、この方面の研究テーマとして大きな地平が広がっています。8月24・25日の両日では、佐賀大にて開催の日本地理教育学会大会に参加しました。シンポジウムのテーマは、「ESD(持続発展教育)としての地理教育からの貢献」です。こちらも、小生がオーガナイザーとしてシンポを組織しました。地元、佐賀県の小学校からも発表して下さり、環境保全やまちづくり、地域への参画、公共心の育成などを題材に熱心な討議ができました。ESDはかなり包括的な概念で、平和や人権、防災なども含んでいます。持続可能な社会を築く上で、重要なテーマはほとんどESDで解説できるかもしれません。

玉川大学には今年4月に観光学部も誕生しています。確かな観光知と観光心を持った人間を育てたいと思います。その意味で、観光と環境や教育の関連付けをこれからも院生諸君と共に研究して行きたいと思っています。

(教授・寺本潔)