岩田恵子 研究室

岩田 恵子 教育学部 教授

発達心理学/保育学  博士(学術)

子どもの社会行動の発達を紐解き、よりよい保育を考える

2014.8掲載

研究内容

保育の場で子どもたちがどのように学び発達していくかを、社会文化的な視点から捉えることを試みています。保育の場の子どもたちの学びと発達を研究していくうちに、その場をつくる保育の営みそのもの、保育者の学びと発達にも関心が広がっています。

保育の場に見られる模倣

子どもの発達に関心をもった私が、最初に幼稚園にお邪魔し始めたときに魅せられたのは、子どもたちの遊びの面白さ、その中での友だちとの豊かなかかわりでした。子どもたちは、本当にさまざまな姿を保育における遊びの場面で見せてくれます。

そのような子ども同士のかかわりのなかで、注目して見ていることのひとつに「模倣」があります。ミラーニューロンの存在からもわかるように、模倣は他者理解の鍵であり、他者との共有世界の鍵でもあります。この模倣が、仲間とかかわる遊びの中で、どのようなクラスの中での関係の網の目の中で、さらには幼稚園全体など、どのような社会文化的状況で生じているのかをエピソードとして捉えています。そしてこのエピソードを分析するとき、模倣という行為がそのような社会の中でどのような意味を持っているのかに焦点をあて検討することで、「かかわり」の中の子どもの発達を描くことを試みています。

子どもがケアする世界をケアする

保育の場で「ケア」という言葉を聞くと、保育者が「行うこと」を即座に思い浮かべることが多いと思います。けれども、ノディングズ は、「ケアリング」というのはケアする側とケアされる側の相互交換的関係をさし、ケアする側はケアすることでケアされ、ケアされる側もまたケアする側をケアしていると述べています。

このケアの相互性を保育の場で考えてみると、保育者は保育する(子どもをケアする)ことを通して子どもからケアされており、子どもも一方向的にケアされる存在ではなくケアする存在であることになります。つまり、保育の場のケアには、保育者が子どもたちをケアする中で、保育者自身がケアされることも、また、子ども同士が互いにケアしケアされている関係も含まれるのです。さらにこのケアの関係は、人との関係だけではなく、モノとの関係に関しても指摘されています。

現在、この保育の場でのケアのありよう、すなわち「かかわり」のありようについて、「子どもがケアする世界をケアする」というテーマのもとに共同研究を進めています。子どもたちのケアする世界、世界へのかかわりかたの豊かさに注目し、そのありかたを丁寧によみといてみることから、保育におけるケア、保育者と子どものよりよい関係性を探究したいと思っています。

「かかわり」の心理学

保育の場での子どもたちの姿を追いかけていると、ものごとの面白さをどんどん発見していく場面、仲間を大切に思うことが伝わってくる場面など、「子どもたちのすごさ」を発見することが多くあります。それは、子どもたちを外側から三人称的に眺めるのではなく、実際のかかわりの中、二人称的世界で子どもたちと出会うことができるからだと思います 。そのような「かかわり」の視点で子どもたちの世界、子どもたちの発達を探究していきたいと考えています。

最近、人間の脳はもともと他者とかかわるようにできており、他者との「かかわり」で驚くべき機能を発揮するものであること、そして「他者とかかわっている」状態の脳科学研究こそが必要であるということを述べている論文 と出会いました。脳科学研究科に所属したことを機会に、そのような視点から脳科学を私自身が学ぶことができれば、と思っています。

研究体制

 研究は、主に保育の現場にて行わせて頂いています。ビデオを持って現場に入らせて頂き子どもの遊びを詳細に見てみること、保育者と保育について、子どもについて話すこと、保育者の方にインタビューをさせて頂くことなどから多くのことを学んでいます。また、教育学部の保育・幼児教育のメンバーとは保育にかかわる幅広い情報を共有し、共同研究も行っています。学外の組織では「子どもと保育総合研究所」というかたちで、保育現場や他大学の保育者養成にかかわる方とともに、保育について学ぶ機会を企画実施しています。今後は、玉川大学赤ちゃんラボのメンバーとして、乳幼児期の子どものケアや学びに関するラボでの研究も企画していきたいと思っています。

ゼミには、教育学部の3、4年生が所属しています。現場で実際に出会う子どもの世界を知る方法として質的な研究方法(観察、インタビューなど)を学び、それぞれが自分のテーマ、自分のデータで卒業課題研究にまとめます。これまでの卒業課題研究は、保育現場に関わることだけではなく、自分自身の関心のある発達心理学、教育心理学にかかわるテーマもあります。ゼミのメンバー同士では、お互い自分とは異なるテーマでも、それぞれが自分自身の体験を重ねながら、ディスカッションが盛り上がることも多くあります。卒業課題研究をまとめることで、今後の自分自身が考える基盤を作ってほしいと願い、自分自身が本当に知りたいことに取り組むことを支援していきたいと思っています。

略歴

日本女子大学家政学部児童学科助手、助教を経て、2009年より玉川大学教育学部。2012年青山学院大学社会情報学研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は、発達心理学、児童学、保育学。所属学会は、日本発達心理学会、日本教育心理学会、日本保育学会、日本質的心理学会、日本認知科学会など。

参考文献