梶川祥世 研究室

梶川 祥世 リベラルアーツ学部 教授

実験心理学/発達心理学  博士(学術)

赤ちゃんのことばの発達を科学的に解き明かす

2013.9掲載

研究内容

研究テーマは、「乳幼児の音声コミュニケーション発達」です。言語や音楽は、私たちの生活に欠かせない重要なコミュニケーション手段ですが、どのようにして身につけてきたのでしょうか? この発達の仕組みを明らかにすることで、人間の心の働きの理解を深めると共に、より良い学習と発達のサポートに役立てることができればと願っています。

乳幼児の音声知覚・認知

赤ちゃんは生まれる前から周りで話される言語の特徴を学習し始め、1歳頃にはいくつかの単語を理解し、2~3歳頃には多数の語彙を学習していきます。このように赤ちゃんがことばを獲得していく過程で、大人の語りかけから「単語を切り出す」ことと、「単語の意味を推測する」ことが必要になります。このとき、赤ちゃんは何を手がかりにしているのかという問題を調べています。

特に、日本語の助詞や助動詞といった機能語の役割、また擬音語の発話特徴と理解の関わりに着目した研究を行っています。 これまでの研究で、擬音語のなかでも特に、「とんとん」と「どんどん」のように、モノの大小を有声性に対応づけられるペアに着目し、お母さんの話し方を分析しました。この結果、お母さんは小さいモノを表す擬音語(「とんとん」など)を、大きいモノを表す擬音語(「どんどん」など)よりも高く、小さい声で発音することがわかりました。そしてこの特徴は、子どもに話しかけるときには普段よりもさらに強調されていることから、子どもの理解を促しているのかもしれないと考えられました。そこで、子どもの擬音語理解の発達との関わりを調べてみたところ、ことばの獲得が早い子どもでは、お母さんがより強調した話し方をするほど擬音語理解が進んでいたのです。

一方で、「イヌ」などモノの名前を発音するときには、声の高さはイヌそのものの大小には関わりがありませんし、お母さんもそのような言い方の区別はしません。つまり赤ちゃんや子どもは、声の高さや大きさといった非言語情報を意味推測に使うべきか否かを、語の種類によって迅速に判断しなければならないということになります。このような単語の種類による手がかり適用の発達についても検討を進めています。

発達における音楽の機能

赤ちゃんや子どもに対して、親、主にお母さんが歌や音楽をどのように使っているか、そして赤ちゃんや子どもはどのように反応したり聞いたりしているのかについて研究を行っています。乳幼児に対する歌いかけは、語りかけとは異なる特徴や機能を持つ音声コミュニケーションの手段として、発達において重要な役割を果たしていることをデータによって裏づけていきたいと考えています。

歌いかけは、赤ちゃんや子どもの感情や認知に影響をもたらし、さらに歌う大人の側にも「気分が落ち着く」「心地よい」という効果をもたらします。このように親子一緒に音楽を楽しむ経験が、親子の絆をより強めることや、子どもの社会性など音楽以外の発達にも関わることが明らかにされ始めています。赤ちゃんや子どもの発達と共に周囲の人々と共有する音楽がどのように意味を変え、またどのような機能を維持していくのかについて、今後さらに考えていきたいと思っています。

研究体制

研究は、主に玉川大学赤ちゃんラボ(脳科学研究所施設)で行っています。ラボでは0~3歳のお子様と保護者の方が会員として登録し、研究に協力してくださっています。お子様にはできるだけ楽しく参加していただけるように調査の仕方を工夫したり、保護者対象の研究報告会を開いたりしています。協力者の自宅や保育園などに伺って調査を行うこともあります。

学内や他大学の研究者と共同研究を行うほか、企業の研究所とも連携して、ラボで得られた研究成果を、育児や教育のヒントとして役立てていただけるよう努めています。

ゼミには、リベラルアーツ学部の3・4年生の希望者が所属しています。子どもが好きで知的好奇心に満ちた学生たちと、文献調査や赤ちゃんラボ・保育園などでの調査実習を通して、発達心理学を勉強しています。自分がもっとも知りたいことを、自分で計画し、自分の力でデータを集め、そしてそれを論文に書き上げるまで、学生一人ひとりの主体性を最優先にしています。そのため、毎年多種多様な卒業研究テーマが挙げられ、楽しく時に熱い議論が繰り広げられています。

略歴

東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。NTTコミュニケーション科学基礎研究所、玉川大学COE研究員などを経て、現職。専門は発達心理学。日本発達心理学会、日本赤ちゃん学会、日本心理学会、日本認知科学会会員。