論文紹介

脳科学研究科に所属する教員による主な研究成果をプレスリリースした論文を中心に紹介します。

適切な「間」は脳がつくり出す──秒単位の時間をつくる脳の仕組みを解明
Interval time coding by neurons in the presupplementary and supplementary motor areas. Mita A, Mushiake H, Shima K, Matsuzaka Y, Tanji J. Nat Neurosci. 2009 Apr;12(4):502-7

玉川大学脳科学研究所所長の丹治順(たんじ じゅん)教授と東北大学大学院医学系研究科の研究チームは、「話す時の間」など日常生活にも密接な関わりを持つ、秒単位の時間を脳がつくり出す仕組みを、初めて細胞レベルで解明した。この研究成果は、米国科学誌「ネイチャー ニューロサイエンス」オンライン版に、日本時間2009年3月2日(月)に掲載される。

 秒単位の時間は、スピーチの「間」をとることや、料理をする際に次の手順に移るタイミングを計る、陸上や水泳のスタート時の間合いなど、日常生活の多くの場面で活用されている。また日常生活において、この「間合い」はカウントを数えたり、時計などを見ることなく、おおよそ適切に把握される。本研究では実験により、大脳の前頭葉内側にある「前補足運動野」の細胞が適切な時間の長さを選択して、秒単位の待ち時間を生成し、その時間経過後の動作開始を促す活動をしていることを解明した。

 前補足運動野で行われている細胞活動の原理が解明されたことにより、時間の認知と制御が不良となるパーキンソン病や、高次機能障害など臨床への応用が期待される。また、思考や感情などに代表される抽象的な概念をつくり出す脳の仕組みは、これまでほとんど解明されておらず、「時間」という抽象的な概念を脳の細胞活動として客観的に捉えたことは、学問的にも大きな意義を持つ。

 玉川大学では、2008年に文部科学省「グローバルCOEプログラム」に採択された「社会に生きる心の創成−知情意の科学の再構築」をはじめ、ヒトの豊かな心の仕組みを解明する研究を脳科学研究所が中心となり進めている。本研究も、その一環として東北大学大学院医学系研究科 虫明元(むしあけ はじめ)教授の研究チームと共同で行われた。