松本先生Vol10:いわゆる協同的な学習の問題点(2)

2016.10.19

一つ目は、小学校における総合・社会科の合科的な単元である。
学習者は、信長、秀吉、家康のいずれかの武将についてその生涯、業績、性格などについて調べている。それぞれの成果をフリップにしており、異なる武将を選んだ3人のチームで互いに発表し合うという学習である。個々人はそれなりに調べており、発表もそれなりに出来ている。しかし、互いに聞き合っているかというとそうは見受けられない。学習者は、互いの発表に関する評価シートのようなものを持っていて、書き込むことになっているが、ほとんど肯定的な評価を書くだけである。評価の観点としては、「内容がわかりやすかったか」「大きな声ではっきり発表できたか」「質問にきちんと答えたか」というようなものである。この質問がなかなか出ないので、授業者はしきりに質問をするように各グループをめぐりながら促していた。
何がいけないのだろうか?
協同学習では、次の5つの基本要素があるとされている。
①互恵的な相互依存関係 ②対面的な相互交渉 ③個人としての責任 ④社会的なスキルや小グループ運営スキル ⑤集団の改善手続き Johnson,D.W.,Johnson,R.T . & Holubec,E.J.(1993)”Circles of Learning : Cooperation in Classroom”杉江修二・石田裕久・伊藤康児・伊藤篤訳(1998)『学習の輪-アメリカの協同学習 入門-』二瓶社
ほとんどがグループ学習成立の要素を言っている。上のような学習を見ると、現場教師は多くの場合④のスキルが足りないのだと考えてしまう。協同学習や読みの交流を実施するのに躊躇する理由もほとんどそこで、次いで①の関係性をあげることが多い。つまり、「話し合いが出来るほど子どもが育っていない」という説明になる。しかし、ほとんどの場合この説明は成り立たない。実際には、④のスキルや①の関係性を向上させざるを得ないように自然になっていくような学習をデザイン出来ていないということの方が大きい。
この学習は、それぞれ十分調べて発表の準備は出来ているので、②や③の要素は満足していると授業者は見ているだろう。国立大附属小の授業だったので、普段からグループ学習は行われており、実は④や⑤はある程度の水準で保証されている。では何が問題か。
授業者は、個別の課題を持って、調べ、発表し、互いに聞くことで③や②そしておそらく①も満たされると考えたに違いない。しかし、そこに問題がある。これは発表させているだけで、互いの発表を聞き合い、話し合うことで初めて達成されるべき学習課題がないのである。学習者が調べ、発表準備をした段階で学習が「終わった」と認識すれば、協同の部分がおろそかになるのは当然である。
この相互発表・話し合いにおいて、「三人の武将の共通点をあげてみよう。」「それぞれの武将が他の二人と決定的に違っているのはどこか。」「信長や秀吉の覇権が続いていたらどんな統治形態になっていたと考えられるか。」といった学習課題が提示されていれば、発表も話し合いも全く違うものになっていたのではないだろうか。