竹田先生Vol.10:授業力を磨く②...「教育的瞬間」を見逃さない

2016.10.19

ある授業のある場面です。「はい」と手を挙げて立ち上がった子が発言しようとしたとたん言葉につまって何も言えなくなってしまいました。先生としては一瞬どう対応しようか迷う場面です。周りの子の反応は様々です。「早くわかりませんって言えばいいんだよ」と突き放した言い方をしている子や「○○さんはいつもこうなんだから」と冷ややかな言葉をつぶやいている子もいます。こんな場面に遭遇した時の一瞬の対応にその先生の授業観が表れます。聴き合い学び合う授業を大切にしている先生は、沈黙している子の隣で、「○○さんの言いたいことは多分…」とつぶやいている子を見逃しません。そのつぶやきをみんなの前で発表してもらいます。それをきっかけに、周りの子どもたちも口々に、沈黙した子の考えを代弁し始めました。そんな周りの反応に黙ってうつむいていた子にも笑顔が戻ってきて「言いたかったことは…」と語り出しました。
また、こんな場面ではどうでしょうか。ある課題について話し合っていた時、一人の子が思いもよらない突飛な(明らかに間違いと思われる)発言をしました。途端に教室は爆笑の渦となりました。その時、子どもたちと一緒に笑っておしまいにしてしまうか、「おっ、そんなふうに考えたのか。先生は、今の考えにとっても興味があるので、○○さんがどうしてそんなふうに思ったのか、みんなで考えてみよう。」と投げかけてみるかで、その後の授業展開は大きく違ってくるのではないでしょうか。
日々の授業の中では、このように、先生の一瞬の対応で授業の流れが大きく変わると思われる場面が幾つもころがっています。しかし、学級担任をしていた頃を思い返してみると、授業がうまくいかないときなど「進んで発表する子がいない、やる気がない」とつい子どものせいにしていたような気がします。今、振り返ってみると、実は、授業を進める上で大事な「教育的瞬間」を見逃していただけではなかったかと思います。
「教育的瞬間」(pedagogical moment)とは、教育学者のヴァンネマンの言葉で、「子ども(たち)のために何らかの教育的な働きかけをしなければならない一瞬」(『子どもの姿に学ぶ教師』鹿毛雅治)のことです。
教師には、このような授業における子どもの表情や発言、行動などから、一瞬の「教育的瞬間」を捉え、適切な働きかけを行う力が求められています。