授業レポート「認知意味論研究」(英語教育専攻2023年春学期)

2023年度春学期の「認知意味論研究」の授業では、主に英語の基本語の意味分析、外国語学習・教育におけるChatGPTの可能性、比喩の3点について学修を行いました。

まず英語の基本語の意味分析については、英語の基本動詞や前置詞の核となる意味(コア)をコア図式として捉えた上で、それが実際の用例でどのように表れているのかを発表したり議論したりしました。また、carryとbringのように意味的に類似した基本動詞の使い分けを、コア図式を用いながら解説する動画を制作する課題にも取り組みました。教員志望の私にとっては、新たな語彙学習の方略を知ると同時に動画制作のノウハウを学ぶことができ、将来教壇に立った時に指導に取り入れていきたいと思いました。

次にChatGPTを英語教育でいかに活用できるかについてペアでプレゼンを行いました。私たちは、学校の定期試験のリーディング問題を想定し、ChatGPTを用いて教科書の本文を内容や新出語句はそのままに作り変えることを実践しました。結果として、ChatGPTが作成した文章には不自然な表現が散見されたものの、指示を工夫することで教材作成の一助となる可能性を見出すことができました。

最後の比喩については、メタファー、メトニミー、シネクドキーという3種類の比喩について学びました。普段何気なく使っている言葉には多様な比喩が存在することを実感したほか、それぞれの比喩がどのような認知的能力に基づいて成立しているのかを楽しく学ぶことができました。

是非、本授業を通して認知的な視点から語の使われ方を考察することの面白さを今後多くの大学院生に味わってもらいたいです。

制作した動画の一場面(具体的な状況を示してcarryとbringを比較する)
制作した動画の一場面(carryとbringのコアイメージ)
制作した動画の一場面(carryの例文)

(文責 英語教育専攻T.W.)



「認知意味論研究」は2023年度から開講された科目で、初年度は4名の院生が受講しました。認知意味論(cognitive semantics)は、「人間」と「世界」と「言語」という3項関係の中で言語現象を捉え、身体性や知覚、概念形成といった伝統的な意味論の中心課題にはなり得なかった視点を取り込むことで、言語現象の背後に「意味的動機づけ」(semantic motivation)が働いていることを明らかにする学問分野です。受講者全員にとって初めて学ぶ分野ということで新しい概念や理論が数多く出てきましたが、どのトピックにおいても意欲的に学修に取り組んでくれました。授業は演習問題やプレゼンテーション、ディスカッションを中心に展開しましたが、学修内容を自分自身の経験や日常の言語使用に引き付けて深い考察を行うことができました。英語の基本動詞を解説する動画制作の課題では、わずか数週間で動画制作のノウハウを独力で身に付け、魅力的な作品を制作することができ、感心させられました。授業担当者として、院生たちと言語について熱く語り合い、多くの刺激を受けることができた濃密な時間となりました。院生の皆さんには、本授業を通して得た言語に対する新たな視座を今後の研究にぜひ活かして欲しいと思います。

(認知意味論研究授業担当者 森本 俊)