高平小百合先生コラム1:賢さって何でしょう?

2018.09.25

私の研究テーマの一つが知能の研究です。知能というと、知能指数(IQ)を思い浮かべる方が多いかもしれません。また、学校の成績をイメージするかもしれません。知能が高い子は、IQが高く、学校の成績も優秀なはずだと容易に想像できます。しかしながら皆さんは、必ずしもそうでないことをすでにご存知だと思います。私が研究のテーマとして興味があるのは、一般的な「知能」の意味ではなく、人間の「知恵」「賢さ」「知性」「人間性」をも含めた全人的な知能です。それは、生まれ持った資質や脳の働き、また育った環境や受けてきた教育によって影響を受け、豊かな個性や個人差を生み出しています。

知能に対する考え方は、様々な「知能の理論」として古くから提唱されています。その中に多重知能理論(Gardner, 1983)という理論があり、7つ(8つの場合もある)の知能があることを想定しています。その中の二つの知能を学んで、学問や研究の重要性を感じました。その2つの知能は、学校の成績とは関係ないというよりむしろ、成績が悪い子どもの中にこれらの知能が優れている子どもが多いかもしれません。
それらは、この理論では内省的知能と対人的知能という名前がついています(他の知能の理論では別の名前です)。内省的知能は、自分自身の理解に関する知能です。私たちは皆、自分のことは自分でわかっているつもりになっていますが、自分の心と行動の癖についてはあまり理解していないのが普通です。自分の心の中を深くみつめ、自分の心の中のネガティブな部分もすべて受け入れて昇華することができる人、また、自分の感情(喜び・怒り・嫉妬など)を客観的に理解しコントロールできる人はこの内省的知能が高いといえる人でしょう。もう一つの対人的知能は、他者に対する深い洞察を可能にする知能です。表情や目の動き、また言葉や態度、personal spaceなどの距離の取り方から相手の感情や気持ちを読み取り、相手の心の動きに合わせて自分の感情や行動を調整できる人がこの知能に優れていると考えられます。
学校においては、点数で表される成績で子どもの賢さが測られ、順位がつけられ、他の子どもとの相対的な比較のために偏差値が用いられます。偏差値が高い児童生徒・学生が評価され、それが将来の学びの機会や社会での可能性を開く重要な指標となっているのが、現在の日本の教育システムです。しかしながら、日本の社会現場においては特に内省的知能や対人的知能の高さが求められているように思います。点数で表すことができないけれども、人としての賢さを評価できるようなシステムが学校教育の中でも求められてくるかもしれません。次回は、賢さの個人差はどのようにして生まれるのかを考えてみたいと思います。

参考文献

Gardner, Howard (1983), Frames of Mind: The Theory of Multiple Intelligences, Basic Books,