高平小百合先生コラム4:環境か遺伝か
2018.10.15
知能の研究
知能の研究においては、古くから双子の研究(宅磨他, 2001)が行われており、 現在では技術の発達によりより庄内奈遺伝子の関与も研究されていました(安藤 , 2017)。人間の賢さ、あるいは知能というものが、遺伝的要因(生まれ)による影響が強いのか、あるいは環境要因(育ち)の影響が強いのかという疑問は、いつの時代も随分、人々の関心を集めています。その答えは、その時代時代に有効な科学技術を駆使した研究方法によって検証されてきたことが積み重ねられています。
また、数々の研究結果から、図1にみられるように、知能や性格に関わる遺伝と環境要因の関係性の強さを示しています。
環境による脳と知能の変化
ルーマニアにおけるチャウセスク政権下では、貧しいにも関わらず政府による人口増加が義務付けられていたために、多くの親たちは生まれた子供を育てられず国の大型孤児院に遺棄していました。その子供たちは、孤児院の劣悪な環境(檻のような子供用ベッドの中に大勢の赤ちゃんが長時間置いて置かれ、ほとんど面倒を見る人がいない状態)の中で育てられていたことがわかりました。チャウセスク政権が 1989年に崩壊後、孤児院にいた子どもたちの研究が行われました。その結果、2歳までに孤児院を出て里親などに育てられた子供や普通の家庭で育った子供に比べ、そのまま孤児院で育てられた子供は知能が低く脳活動が鈍いことがわかりました(ネルソン他,2013)。これは、発達の臨界期・敏感期を示しており、子どもの心と知能の発達には、最初の数年間の適切な環境がいかに重要かを物語っています。また、先進国でも虐待を受けた子どもの脳を調べ、そのような子どもたちの脳が健常児の脳とは異なっていることが話題になりました(友田, 2016)。従って、私たちの脳は、正常な機能を持って生まれてきたとしても、育つ環境によって変化し、環境が極端に劣悪な場合は、脳の成長に致命的なダメージを与えるということです。そして、この脳の成長と変化が一番著しいのが乳幼児期と言えるでし ょう。近年、日本でもネグレクトや虐待によって幼い子供が命を落とす事例が後を絶ちません。そのようなことがなくなるように、教育に携わる者は、努力しなければならないと思います。
参考文献
- 安藤 寿康(2017), 行動の遺伝学-ふたご研究のエビデンスから, 日本生理人類学会, Vol22, No.2, 107-112
- 宅磨武俊・安藤寿康・天羽幸子(2001)ふたご研究―これまでとこれから, ブレーン出版 C.A. ネルソン, N.A. フォックス, C.H. ジーナ(2013)チャウセスクの子どもたちー育児環境と発達障害, 別冊日経サイエンス「心の成長と脳科学」
- 友田明美(2016)児童青年精神医学とその近接領域 57(5), 719-729.