原田眞理先生コラム1:こころのケアの担い手

2018.10.22

昨年、教員ニュースにも書きましたが、昨年度、大学に長期研修を認めていただき、およそ10ヶ月間アメリカのStanford UniversityでVisiting Professorとして過ごしてきました。Stanford UniversityはSan FranciscoとSan Jose の間くらいのPalo Altoという場所にあります。約15年前に住んでいた場所のため、ある程度の土地勘はありましたが、シリコンヴァレーと言われる場所ゆえ、さまざまな変化がありました。Facebook、Amazon、Googleなどがあり、私が住んでいたStanfordのapartmentがあるLos Altosという場所のZIP codeは94022でしたが、家賃全米No.3でした。確かにアメリカの中では安全な地域ですが、物価は非常に高い場所です。

Stanford大学のなかで一番大きいGreen LibraryとHover Tower
VA Hospital Menlo park内

私の元々の専門は精神分析ですが、1995年の阪神淡路大震災、また2011年に発災した東日本大震災以来、被災者・避難者の心のケアに携わってきております。今回のStanfordでの研究は、National Center for PTSDという機関に行き、その中でもDisaster mental health部門で研究をしてきました。アメリカにおけるPTSDの主な研究は戦争神経症から始まっていますが、このセンターはVA Hospital(Veterans Affairs退役軍人)の中にあります。さまざまな研究、治療、文献などが発信されていますhttps://www.ptsd.va.gov/。今回私は日本におけるSelf Help Group (当事者/非当事者による団体)が使用するプログラムなどを作成してきました。
それ以外でもPalo Alto University(今は別のことで話題になっています)の大学院生たちがearly intervention(早期介入) clinicで関わっているトラウマの事例の事例検討会に参加し、助言を行っていました。相談者はたとえば、朝起きてみると、隣のベッドで夫が亡くなっていた奥様、サマーキャンプに参加させていた子供がキャンプ先で事故死した母親、子供が鉄道自殺した後の家族(Palo Altoでは約10年前から高校生による鉄道自殺が頻発している)からの相談などです。出来事の直後(1週間から1ヶ月)くらいに予約が入ることが多いのですが、聞き手である大学院生へのインパクトも大きく、二次受傷が心配され、事例検討会では2名の教授がしっかりと助言をして支えています。とはいえ、非常に印象的だったのは、大学院生が深刻な状態を時に涙しながら報告しており、私はとても彼女のことを心配していたのですが、自分の順番が終わると、突然クッキーやブリトーを食べ始めたりするのです。またZOOMというSkypeのようなオンライン会議での参加も認めているのですが、PCの上を猫が歩いたり、とてもリラックスした雰囲気で行われます。
前置きが長くなりましたが、私自身は、災害の増加しつつある現在の日本において、今後、専門家だけが心のケアをするのではなく、一人ひとりが知識を持ち、こころのケアを実践できるようになることが大切だと考えています。災害や事故などのあとに、専門家が出向いて、こころのケアをすることも大切です。しかし、その前に、日常生活で信頼関係を築いている家族、担任の先生や学校関係者、地域の方々が説明や支援をしてくださるほうが(緊急時は、せざるをえないのですが)、すんなり受け入れることができ、安心します。そしてそれらは、非常に早期の重要な関わりになると考えています。また、とりたてて「こころのケア」というのではなく、日常生活の中にこころのケアという視点を持ちながら生活することが大切だと考えています。
参考文献には、身近でできるこころのケアについて、早期のこころへの介入となるものをあげました。

参考文献
  1. サイコロジカルファーストエイド(兵庫県こころのケアセンターによる訳)
    基礎から勉強したい方にお勧めです
  2. Save the Childrenによる子どものためのファーストエイド
    簡単でわかりやすいです
  3. 学校における大切な人を亡くした子供への対応ハンドブック:静岡大学
    PDFでダウンロード可能です