寺本潔先生:観光(ツーリズム)は“感幸”に通じる新たな学び第1回 激変する社会

2018.11.19

2017年は、インバウンド(訪日外国人旅行者)は年間2869万人で五年前に比べて3.4倍もの数に達しました。外国人客による消費額も4兆4262億円を超え、産業別でも自動車、化学製品に次いで第3位に急上昇したのです。人口減少社会の到来で消滅も危惧される地方の市町村にとって観光は起死回生の策です。経済的な活力や快適な生活水準を今後も維持するためには、観光やイベントなどによって交流人口を増やす必要性が高まっているのです。地方に旅してみたくなる国、ニッポン。でも、これを創る人材が決定的に不足しています。そこで、人材育成の観点も加味して大事なのが観光の重要性を理解する学びではないでしょうか。「観光の学び」と聞くと娯楽のための行為を教えるんですか?と誤解される方もいらっしゃいますが、そうではありません。相手目線に立って地域の魅力を価値に高める方策を考えたり、外国語を駆使して訪日外国人と接する接遇(ホスピタリティ)を磨いたり、持続的な観光のために環境や伝統文化を保全したりと多岐にわたります。その過程で企画力や異文化への寛容性も育めるのです。もちろん、温泉とグルメがメインの旅番組をテレビで視聴することも多いでしょう。でも、その温泉地の由来や食材の背後に見え隠れする土地の農産物について、どれくらい知っているのでしょうか。これからは、「学び旅」が大切な旅行の醍醐味になるはずです。世界遺産や日本遺産、工場見学などの産業観光などはまさに「学び」です。知的な愉しさが感じられ、その土地が遺伝子のように持っている物語に感動し、ひいては自己成長につながる実感が持てます。観光行動とは非日常が体験できる土地への移動を介して、その土地の光輝くよさを体得する健康的な行為です。旅に出かけて「疲れた。やっぱり我が家がいい!」とつぶやきながらも、また旅に出かけたくなるではありませんか。これからは自らも国内外への旅行を愉しみ、併せて訪日外国人客との交流も大事になってきました。この両面に対処できる人材を観光を題材にした学びで育てたいものです。

筆者が考える環境と観光を題材にした学びの概念図

残念ながら、観光を題材とした内容は教科書には皆無です。わたしが専門で研究している社会科教育でさえ、観光は教育旅行で登場するくらいで産業としても記述は皆無です。次期の学習指導要領では扱われる箇所がわずかに見られますが、我が国で自動車や化学産業に次いで4兆円以上も稼ぐ産業に成長した割にはしっかりとしたポジションを与えられていません。観光系の仕事は、未だ教育関係者の中で、まるで水商売だから、わが子を就かせたくないとおっしゃる方もいてびっくりしたこともあります。観光は「感幸」に通じるステキな業界です。旅のチカラを信じて、地球大交流の時代に船出できる人材を学校でも育成したいものです。