寺本潔先生:観光(ツーリズム)は“感幸”に通じる新たな学び第4回 全国の自治体の教育関係者に期待すること

2018.12.10

こういった教育の必要性に対して知事部局や観光団体の方々は、いずれも賛同して下さいます。教育長クラスの方々や一部の学校長も総論は賛成とおっしゃいます。しかし、具体的な単元開発や指導への手順づくりに至ってはなかなか前向きにはなって頂けません。それほど、学校教育の課題は山積で、新規の内容として盛り込もうとすれば「それは無理!」と言われかねないのです。観光教育?また「〇〇教育ですか!」と半ばお怒りにも近い反応を受けたこともあります。でも、広い意味で観光の学びは、ふるさとの資源を見直したり他者を理解する寛容な心につながります。地図や統計のスキルも身に付き、企画力や外国語会話、ホスピタリティも備わるため、教育効果は絶大です。これは過去6年間、延べ70時間もの観光授業の出前を体験した筆者の体験から強く言える利点です。

函館市の小学校5年生が考え出した観光プラン

学習成果の定着度を解説したラーニングピラミッドという図をご存じでしょうか。学習で獲得した知識や技能は人の前で説明する機会を持つことが最も定着率が高いと指摘されています。その点、児童生徒たちによって、最終的に何らかのリアルな観光ガイド体験が持てれば、観光の学びは、大きく成果をあげることでしょう。世界遺産に指定されたいくつかの自治体では中高生が既にガイド役として活動を開始しています。わたくしが度々訪問している沖縄県石垣市では市が策定した観光基本計画の中に「本市観光における人材とは、それぞれが携わる分野や暮らしの魅力を観光客に紹介するあらゆる人々と考えます。その人材育成の基盤として、学校教育における観光カリキュラムの導入を促進し、長期的な観光認識の向上を検討した幼少期からの観光理解を進めます。」(目標2主要方針5より)といった文章も見出すことができます。実に先進的です。自治体関係者の方がもしこのコラムを読んで下さるならきっとこの教育が次代のニーズに見合った新しい「ふるさと学習」につながることを理解して下さるのではと期待するばかりです。わたくしのこうした考えは9月に和歌山大で開催された日本地理学会地理教育講座でのシンポジウムや11月に奈良教育大で開催の日本社会科教育学会大会、さらに12月に跡見学園女子大にて開催の日本観光研究学会などで発表します。また、玉川大学教育学部紀要(論叢)に数本報告しています。ご参照頂ければ幸いです。