小原一仁先生円環を成した教育2

2021.09.23

前回は、百學連環という西が考案した翻訳語に端を発して、古代ギリシアで生まれたΕγκύκλιος Παιδεία、その理念を受け継ぎながら古代ローマから中世を通じて形成されたartes liberalesおよびseptem artes liberals、やがて西洋(とりわけ英語圏)でliberal artsとして発展し今日に至ることを紹介しました。日本では一般教養という言葉で表されるこの「円環を成した教育」ですが、今回は、Εγκύκλιος Παιδείαを表す別の言葉を紹介したいと思います。
Εγκύκλιος Παιδείαをより忠実に再現している言葉(あるいは原点回帰している言葉かも?)としてwell-rounded educationがあります。まず、well-roundedには「均整の取れた」「幅の広い」「円満な」という意味があり、これを受けて、「幅の広い教育」という直訳になりますが、一般的には「全人教育」と訳されます。
このwell-rounded educationという言葉は、主に米国を中心に使われています。例えば、Harvard Universityの大学部門であるHarvard Collegeでは、Guide to Preparing for Collegeという公式HP(https://college.harvard.edu/guides/preparing-college)の中で、高校生に向けてwell-rounded educationの重要性を説いています。それから、オバマ大統領が2015年10月10日に署名したEvery Student Succeeds Actにおいては、well-rounded curriculumを全ての公立校に導入することが謳われています。

さて、全人教育と言えば、本学の教育理念です。この理念を提唱した小原國芳は、人間教養が欠け、偏重した教育を強く批判し、全人教育を通じて、調和ある人格の完成を目指していました。生前彼が残した多くの書の中に、円の中に全人と書いたものがあります(画像参照)。
奇しくも、全人教育を提唱した小原國芳も、理想とする教育を、円を用いて表現していたのです。古代ギリシアより綿々と続く円環を成す教育との繋がりを感じさせてくれます。と同時に、教育の理想を追求(追究)すると、自然と一つの考え方に辿り着くことの証左でもあります。
とかく舶来物に目がないキャッチ・アップ精神旺盛な人にとっては、横文字に彩られた「外」の教育観、教育手法、教育プログラムが魅力的に映るようですが、人類が理想と信じ追い続けた(ている)教育は、時代や文化、まして表層的な差異でしかない言語という壁をも超えて、普遍的に存在しています。流行や通説に惑わされずに、「教育の本質は何か」を絶えず問う活動は、これからも洋の東西関係なく継続されるものであって欲しいと切に願います。