寺本潔先生:SDGs学び旅 -北海道網走・知床への出前授業で考えたこと-ウトロ義務教育学校で持続可能な観光を考え合う

2021.12.13

写真2 世界自然遺産 知床五湖(筆者撮影)

世界自然遺産に登録されている北海道斜里町知床(しれとこ)に出張し、出前授業のために町立ウトロ義務教育学校を訪問しました。ウトロは、オホーツク海に面する知床の入り口にある街で、鮭漁が盛んで温泉も湧出し景勝地なためリゾートホテルも立地する観光地でした。北海道の命名者である松浦武四郎著『知床日誌』にも登場するアイヌが名付けた地名(ウトロ:岩の間を通り抜ける場所の意)です。世界自然遺産登録以後、毎年100万人を超える観光客が知床五湖を訪れ、自然美を楽しめるエリアです(写真2)。知床自然センターでは、野生動物であるヒグマと人との関係性を再考させる環境教育も実施されていて、地元の児童生徒が9年間通う義務教育学校ではユニークな「ふるさと知床学習」も展開されています。小学校は1学年10名ほどで中学校は4,5名ほどの少人数クラスですが、複式学級ではなく、系統的な学習が実行されていました。

世界自然遺産地区とはいえ、昨年から今年にかけてはヒグマが里に出没する事件や温暖化の影響なのか鮭の水揚量の激減、エゾ鹿の増加による食害なども報告され、一方で観光客がコロナ禍による激減で収益が悪化している飲食・宿泊業が心配されていました。そういった変化を積極的に教材として捉え、総合的な学習の出前授業に臨みました(詳しくは玉川大学教師教育リサーチセンター年報の最新号を参照)。

世界自然遺産地区として登録されていることが、地元の子供には当たり前の事実として認識され、その登録に至る先人の努力や自然の価値について自分に引き寄せて捉える機会は意図的に用意しなければ学べないものです。かつては開拓団が入植し、森を切り開いたことやその後の土地買収から斜里町の町長による100平方メートル運動という全国の市民による森林の買い取り(一種のナショナルトラスト)の促進など、美しい自然に見え隠れする開発と保全のせめぎあいを学ぶこともできます。観光客が残したお菓子袋や弁当の食べ残しに熊やキツネ、鹿が近づき味を知ること、道路に出た野生動物をカメラに収めたいあまり、マイカーの窓から身を乗り出して撮影することで渋滞が発生するなど、都会から来た観光客のマナーの悪さも問題になっているエリアです。自然と人間の関係性を再考できるSDGsが学べる場所なのです。