高平小百合先生:認知心理学からの心と行動の理解:認知バイアス心と行動の無意識の偏り1:「同調バイアス(同調圧力)」

2022.02.17

私の専門である心理学は、人間の心と行動を科学的に理解することを目的とする学問領域です。心理学は多様な分野に分かれており、厳密な科学的手法による神経心理学から心の治療を目的とした臨床心理学まで多岐にわたります。私は科学的手法による認知科学や脳科学の知見を基に認知心理学・教育心理学・発達心理学の観点から子どもや大人の心と行動の理解を目指しています。この4回のコラムでは、学校現場で教師や児童生徒に見られる無意識の心の偏りである認知バイアスについてお話したいと思います。

コラム1では、認知バイアスの中の「同調バイアス」についてコロナ禍における事例を含め考えてみたいと思います。2020年から始まった新型コロナ感染症によるパンデミックは、グルーバル社会の在り様を大きく変えることになりました。同時に、個人の行動にも大きな影響を与え、自粛生活・オンライン授業・テレワークなど人と接する機会が最小限に制限されるようになったことは誰もが経験したことでしょう。そんな中、ロックダウンをした欧米諸国に比べ、日本は感染者数・死者数とも格段に少なく、その理由(ファクターX)の一つとして自主的なマスク着用やワクチン接種なども挙げられています(山中, 2021)。これは日本人として誇りに思うことではありますが、調和・協調を重要視する日本社会の文化背景の影響が大きく、皆に同調する行動をすることが求められるためと思われます。同調とは、「他者の行動や考え方に合わせる」(情報文化研究所, 2021)ことを指し、無意識のうちに他者の行動や考え方を取り入れて同じようにふるまうことを同調バイアスまたは同調圧力と言います。
この同調圧力は上記のように良い面もありますが、一方でいじめや不登校などの原因となる悪い面も取り上げられています。昨年6月の新聞には文科相が「学校での集団接種は受ける人と受けない人の差別化につながり、いじめにつながることも心配される。希望する子どもは親の同意のもとで、個別接種を進めていく」(朝日新聞, 2021)と述べており、見出しには「文科相、同調圧力を懸念」とありました。
学校現場における同調圧力の影響は、いじめの加害者・被害者・傍観者の間にも働き、周りと同じようにしなければ自分がいじめられる、といった行動の中にもみられます。また、数年前には、私のゼミ生が小学校段階における同調圧力と自己肯定感を卒論テーマにし、自己肯定感が低い児童ほど同調圧力への過敏性が高いということを教育心理学会で発表しました(松井・高平,2020)。
このように、学校現場においてクラスやグループなど集団として活動するときには、何らかの集団規範が存在し、そこには無意識の同調圧力が生まれます。これは大人の社会でも同じですが、子ども達がこのような同調圧力を経験しながらうまく適応していくすべを身につけるのも学校という社会での重要な学びかもしれません。ただ、この同調圧力が極端に苦手なのが、発達障害傾向(診断のないグレーゾーン)の子ども達ですが、これについてはまたいつかお話できればと思います。
子ども達の心と行動の理解のためには、学校という社会や子ども同士の集団の中で働く目に見えない力(同調圧力)を見抜く能力も身につけることも必要になるかと思います。

参考文献

  • 山中(2021)「従来型ウィルスから日本を守ったファクターX」
    https://www.covid19-yamanaka.com/cont1/74.html(アクセス:2022年2月16日)
  • 情報文化研究所(2021)「認知バイアス辞典」高橋昌一郎(監修)フォレスト出版
  • 朝日新聞(2021)学校集団接種「推奨しない」文科相、同調圧力懸念
    https://www.asahi.com/articles/ASP6Q574YP6PUTIL06M.html(アクセス2022年2月16日)
  • 松井柚子・高平小百合(2020)小学校段階における同調圧力に対する自己肯定感の影響と居場所感について, 教育心理学会第62回総会発表論文集.