高平小百合先生:認知心理学からの心と行動の理解:認知バイアス心と行動の無意識の偏り3:「確証バイアス」

2022.03.09

コラム3では、学校現場でも日常生活の中でも非常に頻繁に見られる認知バイアスである「確証バイアス」についてお話します。先日、研究会で同席した先生が「授業評価のコメント欄を見るとき、無意識で良いコメントばかり探していた」と、おっしゃっていました。それは「確証バイアス」ですよ、とお伝えしました。人は、自分の考えや仮説に合うような情報(自分の正しさを確認するために都合が良い情報)をだけ集めようとし、考えや仮説に合わない情報は無視しようとする傾向があるのです(高橋, 2021)。

よく考えてみると私たちの日常生活の中には、思い当たることがたくさんあります。例えば、占いが当たると思っている人は、占いの内容と合致するような情報ばかりに注意がひきつけられたり、記憶の中から取り出したりするため、当たっているように感じると考えられます。また、SNS上の不確かな情報に接した時、「もしかしたら本当かもしれない」と一度思ってしまうと、その情報に合うような情報ばかりに目が行きやすくなるため、たとえフェイクニュースであっても本当の事に感じてしまうようになります。また、面接などで第一印象が大切といわれるのは、この確証バイアスの影響を考えると納得がいきます。最初に良い印象を持たれると、その後のやり取りの中で、その良い印象に合う情報に注意が向けられる可能性があるからでしょう。

学校現場における教師の確証バイアスについて考えて見ましょう。授業評価についての偏りに、「ハロー効果(後光効果)」というのがあります。児童がある特性に優れている(例えば、字がきれい、足が速い、など)と、他の部分もよく見えてしまうというものです。字がきれいだと、作文の評価にプラスに影響したりします。これも、字がきれいという目立つ特性に合うような情報を見ようとする傾向によるものであると考えられ、ハロー効果も確証バイアスの原理が働いていると考えられます。これらの事も気をつけなければなりませんが、より深刻なのは、逆の場合です。ある子どもについてのネガティブな情報(たとえそれが不正確な情報であっても)に接し、それを信じた(否定する十分な情報がない)場合、同様のネガティブな情報に注意がひきつけられ、正しい判断ができなくなってしまう可能性があります。その結果、子どもを傷つけることにもなりかねません。情報が他者に関する情報であるとき、子ども同士の仲間関係、教師と子どもの関係、また教師同士の関係、教師と保護者の関係など、どのような関係性の中にも潜んでいるバイアスです。

情報があふれる現代では、情報の取捨選択が非常に困難です。ただ、自分の中の確証バイアスを認識し、自分に問いかける姿勢を持つことが、教師という立場においては特に大切だと思います。

参考文献

  • 高橋昌一郎(監修)(2021)「認知バイアス辞典」情報文化研究所, フォレスト出版
  • 鈴木宏招(2020)「認知バイアス 心に潜む不思議な働き」BLU BACKS 講談社