鈴木美枝子先生保育と保健の融合をめざして(1)

2022.05.26

保育と保健の融合とは

コロナ下において、保育・幼児教育現場では、まさにやりたい保育と子どもの健康・安全を守ることとのせめぎ合いで大変な思いをされているところかと思います。楽しく、心豊かな経験ができる保育を展開したいのに、さまざまな保健的対応についての情報が入り、どこまでどのように、折り合いをつけていけばよいのか、悩ましい日々を送り続けているのではないでしょうか。基本的に日々の保育は止めることはできませんので、その場その場で、新しい情報をキャッチしながら、「では自分たちの園ではどうしたらよいだろうか」と模索しながら進んでいくしかないのが現状ではないかと思います。

保育・幼児教育現場での保健的対応に関しては、さまざまなガイドライン等があり、また通達なども頻回に出されます。その内容をしっかり読み込んだ上で、自分たちの保育の中にどう落とし込んでいくことができるか、悩みながらも自分たちなりの回答を探していくことが、実はとても大切なのではないかと感じています。

保育を考えるとき、「子どもが生きてその場にいる」ということが大前提であることは誰もが理解していることでしょう。つまり、子どもが生きてその場にいるからこそ、保育は成り立つわけで、「子どもの命を守る」ということは、保育者にとって大変重要な責務であることは間違いありません。

しかしながら安全面や衛生面を重視するあまり、禁止やルールを作り過ぎると、子どもがのびのびと過ごし、生き生きと活動し、たくさんの豊かな体験をしていくことを阻害してしまう可能性があります。本来、保育・幼児教育の場は、子どもが楽しく、豊かな経験をする場であり、安全面や衛生面での対応を考えるときも、子どもの思いを受け止めたり、主体性を尊重したりする気持ちを忘れずにいてほしいと思います。子どもの思いを無視したルール作りをするのではなく、同じルールであっても子どもたちと一緒に考えていくことで、子どもは自ら安全面や衛生面についても考えることができるようになっていくでしょう。保育と保健の融合は難しいと思われるかもしれませんが、子どもを中心において考えていくことで、融合させていく手立が見つかるのではないでしょうか。

保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会による議論のとりまとめ1)によると、「保育の質」は「多層的で多様な要素により成り立つもの」であるとされています。そして、「保育の質」を検討するに当たっては、「子どもを中心に考えることが最も基本的な視点」であることが示されています。そして常に「子どもにとってどうか」という視点を中心にすることが示されています。実は、この「子どもにとってどうか」という視点は、保育における保健的なさまざまな対応についても共通する考え方であろうと考えます。

例えばアレルギーのある子どもを保育する際には、保育者が知っておくべき対応等について示された「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2019年改訂版)」2)がありますし、感染症の対応については昨今の新型コロナウイルス感染症の対応が追記された「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)(2021(令和3)年8月一部改訂)」3)があります。また、事故防止については「保育・教育施設における事故防止ガイドライン」4)があります。これらは、保育者にとって、子どもの命を守り、安心・安全に生活していくために欠かせない知識が示されているものとして大変重要なものです。保育・幼児教育現場では、こうしたガイドライン等を参考にしながら、それを順守しつつも、対応する子どもの気持ちに寄り添い、その子どもがどう感じているか、といったところにも配慮しながら進めていくことがとても重要な視点になるのではないでしょうか。そこに「保育と保健」の融合の鍵が隠されているように思います。

ガイドライン等をしっかり読み解きながら、ガイドラインには書かれていないようなさまざまな状況に応じた対応については、その保育・幼児教育施設のもつ特徴や理念と重ね合わせ、職員間で情報を共有し、どのように保育を展開していくかについて共通理解しておくことが重要でしょう。ガイドラインは、保育をがんじがらめに固くするためのものではなく、「こういう点に注意しておくことが重要である」ということを示しているものであることを認識し、実際の保育現場においては、それを踏まえたうえで、いかに子どもたちに豊かな環境を提供できるかについて十分に考えていくことが大変重要であろうと思います。

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