鈴木美枝子先生保育と保健の融合をめざして(2)

2022.06.02

同僚性を高める風土―多職種連携の重要性―

保育者に対する研修を、毎年さいたま市で実施させていただいていますが、保育者だけでなく、保育所看護職の方も一緒に研修に参加していただいた回がありました。このとき、保育者と看護職とで、子どもを見る視点に違いがあることが大変興味深く、そのどちらもが子どもにとって必要な視点であることを強く感じたことを覚えています。

例えば、午睡時に気をつけるべきことについて演習をした際、看護職と保育者とで少し違う視点が語られたのです。もちろんどちらからも午睡中の呼吸の確認といった安全面への配慮に関しては第一に出されましたが、その後看護職からは、アタマジラミの感染予防のために、子どもの頭同士がくっつかないよう十分に間隔を空けたり、頭と足が交互になるように寝かせているといった工夫や、午睡中に咳込む子どもへの配慮など、主に体調管理に関わる内容が多く出されました。一方保育者からは、子ども同士の関係性によってふとんを敷く場所に配慮したり、気持ちよく午睡に入れるよう、午前中の活動中についてちょっと一言言葉を交わして子どもの気持ちを温かく受け止めてから午睡に入るようにするなど、子どもの気持ちを大切にしたかかわりについて語られました。また、午睡をせずに遊びたい子どもの居場所についても配慮していることについても語られました。

保育所保育指針の第1章 総則 にある保育の目標の中に、「十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で子どもの様々な欲求を満たし、生命の保持及び情緒の安定を図ること」とあるように、この保育者と看護職の視点はどちらもとても大切であることがわかります。このように職種の違いによって子どもへの配慮の視点がほんの少し違うことこそが、子どもの育ちを多面的に支えることにつながっていくのだと思います。

看護職の方からは「保育者が日々、どんなことを大切にしながら保育しているのかがわかり、有意義だった」という感想が出ましたし、逆に保育者の方からは「看護職の方の子どもの健康に関する対処や配慮は、保育者にとっては気づきにくいことも多く、自園に帰ったら、今まで以上に交流を深めようと思った」という感想が出たことが印象に残っています。職種が違っても、子どもたちにとっては保育現場にいる大人であることに変わりなく、職種によって異なる視点があることは、子どもを中心にして語り合える風土があることで、より豊かな子どもとの関わりを形成することにつながると考えます。保育の質を向上させるためには同僚性が重要視されていますが、それは多職種との関係性にも当てはまるものといえるでしょう。

「幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイド【確定版】」5)の中でも

2022年3月に「幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイド【確定版】」5)が完成しました。鈴木は、子どもの偏食対応や肥満の支援についてのコラム、Q&Aなどを主に執筆させていただきました。例えば偏食のある子どもへの対応としては、鈴木らが『幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイドの開発に関する研究 平成29~令和元年総合研究報告書』6)の中で報告した「子どもが偏食を解決していくプロセス」を引用しています。子どもの気持ちに寄り添い、子どもが何に対して「好き」と感じていて、何に対して「嫌(いや)」と感じているか、という視点を大切にしていくことの重要性を伝えています。無理に食べることを強いるより、子どもが食に主体的に関われるような環境を用意し、子ども自身が嫌いな食べ物への捉え方を変化させたところで、「一口だけなら食べられるかも」と感じてチャレンジするようになるといったプロセスがあることが示唆されました。無理にその場でなんとか食べさせようとするのではなく、その子がどうしたら、「食べてみようかな」という気持ちになるのかについて、子どもの気持ちに寄り添いながら対応していくことが大切であろうということです。ガイドの中では「物語メニュー」というものも紹介していますが、子どもが好きな遊びや絵本などを連想できるメニューのネーミングを考えることで、子どもの心が動き、食べられるようになることがあります。

このように食に関しても、保育・幼児教育現場ならではのアプローチで、子どもが安心して食べられるようになっていく事例はたくさんあります。と同時に、口腔機能に合った調理形態になっているかどうかを確認することなども大切です。子どもは口腔機能が発達していないと、「食べにくい」と感じたものは、口の中にいったん入れても出してしまうことがあります。奥歯が生えていない場合は、奥歯ですりつぶす食品は食べにくく、繊維質の食品を嫌がることもあります。実際、口腔機能の発達に合わせた食材の切り方をすることで、食べられるようになることもあります。本ガイドでは、このように口腔機能についても掲載されていますが、こうした示唆が得られるのも、このガイドを作成する際に多職種で連携したからこその知見だといえます。


保育者は、子どもの最も近くにいる大人である可能性が高く、「その子どもにとってどうか」という視点を忘れずに、十分な知識や知恵を融合させながら接していくことが大切なのではないでしょうか。保育の質を向上させていく上では、衣食住を含めて、日々の生活を豊かにしていくことが欠かせません。さまざまなガイドライン等で得られる知識を持ちながら、目の前の子どもの気持ちを考え、どのように関わっていくとより良いのかを模索しながら関わっていくことが重要でしょう。

「子どもにとってどうか」という視点を中心にした保育をするために、ガイドライン等にある内容もふまえながら、多職種で連携し、子どもを中心においた対話をすることで、保育者自身は何に配慮しながら、どのように保育を進めていくかを考えていくことが、今後ますます求められていくのではないかと思います。多職種が対話を通してさまざまな視点を出し合い、保育と保健を融合させながら子どもの生命の保持と情緒の安定を図ることで、全ての子どもにとって豊かな保育が展開されていくことを願ってやみません。

文献

  • 5)
    令和3年厚生労働行政推進調査事業費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)「幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援に向けた効果的な展開のための研究」班『幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイド【確定版】』,2022.
    https://sukoyaka21.mhlw.go.jp/useful-tools/thema4/
  • 6)鈴木,近藤,加藤,仁藤「Ⅱ.2.1保育所・幼稚園・認定こども園等における食生活支援に関する研究」,厚生労働科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業)研究代表者 石川みどり『幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイドの開発に関する研究 平成29~令和元年度総合研究報告書』,2020.
    https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/27660