原田眞理先生精神分析とは

2022.07.28

精神分析は19世紀末、ジークムント・フロイトFreud.Sにより創始されました。私は高校生くらいから、明確に精神分析に興味を持ち始め、大学では人格心理を勉強するようになりました。フロイトが、「意識」に対して「無意識」という概念を提唱したのですが、その「無意識」に強く惹かれました。
その後心と身体の関係に特に関心が深まり、大学院からは心療内科に所属し、摂食障害を中心に研修や臨床活動を行い、身体症状と心のメカニズムを研究することにしました。ちょうどその当時、阪神淡路大震災が発災し、心の傷にさらに興味が湧き、フロイトのいう心的外傷とトラウマの関係について考え始めました。
今回のコラムでは、精神分析について簡単に解説とご紹介したいと思います。

精神分析とは

フロイトが初めて精神分析という言葉を使用したのは、1896年「神経症の病因」という論文と言われています。精神分析は精神分析事典(岩崎学術出版社2002年発行)によると、

  • (1)
    人間の夢、言葉、失錯行為、空想、記憶、症状など、心的現象の無意識的意味を解読する独自の心理学的な解明方法をいう。基本的には自由連想法による解明を主とするが、その後自由連想法を用いないさまざまの観察方法(たとえば面接による精神療法、遊戯療法、乳幼児観察など)を通しての解明も用いられるようになった
  • (2)
    上記の心理学的解明方法を基本手段とし、分析者と被分析者が治療契約と作業同盟の下に、被分析者の心的葛藤、抵抗、転移、逆転移、対象関係の認識とそれに対する治療者の介入と解釈(再構成・伝達)による洞察を治療機序とすることに特徴づけられ、毎日分析(週4回)を原則とする独自の治療構造を持った精神分析療法、基本原理は精神分析によるが、対面法による週1回〜2回の精神療法は、精神分析的精神療法と呼んで、精神分析療法と区別される。
  • (3)
    これらの精神分析的な解明方法と精神療法によって得られる経験的素材に基づいて構成された一連の心理学的精神病理学的理論、の3つの意味を持っている。
  • (4)
    さらに、芸術、文化、社会心理、思想の理解にこの解読方法と理論を応用する応用領域がある

とされています。
写真を見ていただくとわかりますが、セラピストはカウチ(寝椅子)の頭側にある緑の椅子の位置に座ります。自由な心の動きを妨げないよう、この位置が良いとされています。日本においては、(2)にあるように精神分析的精神療法が主流です。この場合は自由連想法(思い浮かんだことをそのままに語る方法)を用いますが、カウチではなく対面法で行うことが多いと思います。
後に小此木啓吾先生が分析者のフロイト的治療態度として、中立性、隠れ身などをあげており、構造化されたなかでセラピーは行われます。隠れ身というのは、セラピーで自由に心を動かすためには、セラピストが生身の人間としての影響を最小限にする必要があることへの注意なのですが、椅子の位置もそのこととも関係しています。

無意識の影響

精神分析では偶然ではなく、全てを必然ととらえます。フロイトは失錯行為で無意識の説明をしていますが、たとえば、「授業に遅刻をした」という行為を例に考えると、たまたま寝坊をしたのではなく、寝坊をしたことには無意識からの意味があると考えます。その授業に出るのが気が重い、十分な予習をしていない、苦手な友達がいるなど、何某かの理由があると考えます。これらの理由は意識されることなく、無意識に押しやられている状態(抑圧の場合もあれば否認などの場合もあります)で、ふと行動に無意識が現れてきたと考えるのです。私たちは誰でも、無意識的なとらわれのなかで生きています。そのとらわれは意識されていませんが、大きすぎると、苦しくなり、心のバランスを崩すことがあります。その結果、具体的な症状が出てくる場合もありますし、自分自身で生きづらさなどを意識することにより、精神分析を求めてこられる場合もあります。
精神分析ではこれまで述べたような方法を用いて、セラピーを行います。セラピーの場では、クライエントは、セラピストと時間を共に過ごし、セラピストと共に心について思いを巡らせていきます。週4,5回のセッション(1回45分か50分)を継続していくと、次第にクライエントの無意識の世界が、語られる内容や夢、セラピストとの転移関係(過去の重要な対象との関係をセラピストに投影する)の中に現れてきます。セラピストは資格を取るためにさまざまなトレーニングを受けている(参考のHPなどで詳細が書かれています)ので、クライエントとの間で展開されてきたことを理解し、それらを少しずつクライエントに伝えて(解釈)、ご自身の無意識の世界に目を向け、理解していくお手伝いをしていきます。「無意識の意識化」が生じると、とらわれから自由になることができ、より幅広い人生を過ごすことができるようになります。
最近では歌手の宇多田ヒカルさんが、母親の死などの精神的に辛い時期から精神分析を受けていると雑誌のインタビューで語ったことで、注目されました。

写真は、筆者が購入したLondonにあるフロイトミュージアムに展示してあるフロイトが晩年使用していたカウチの葉書です。フロイトはウィーンの神経学者で、当初はニューロン理論の基礎となった研究を行なっていましたが、その後臨床神経学者になる決意をして、シャルコー(ヒステリー研究で知られる)の元で神経学を学び、1891年ベルクガッセ19番地に開業しました(ここもフロイトミュージアムとなっています)。フロイトはユダヤ人のために、1838年ナチスのウィーン占拠を機に、弟子たちの協力を得てロンドンに亡命しました。精神分析の発展には当然社会的な背景も関係しています。

より詳しく知りたい方は、精神分析に関する本をお読みください。

筆者が購入したLondonにあるフロイトミュージアムに展示してあるフロイトが晩年使用していたカウチの葉書。セラピストはカウチの頭側にある緑の椅子に座る。

参考