カメダ クインシー先生学習する組織としての学校(教師の学び合いを支援する)

2023.08.01

私は、学校が「学び続けるコミュニティ」になろうとする姿(学校の環境・文化の変容、課題に直面したときの乗り越えようとするプロセス)について興味関心を持っています。もっと具体的に言うと、学校で働く全ての教師にとって有意義で協働的かつ継続的な学びを促進する環境を育むシステムの作り方やその性質についての研究に取り組んでいる。学校における教員同士の協働とは、教師のプロフェショナルラーニングにとって実りある状況を形成することができると言われるが(OECD, 2020)、長年にわたって多くの学校を訪問して学んだことは、優れた「教師の」学び合いの環境の基盤には、学校コミュニティにおける協働文化の事前の存在に依存していることである。長年にわたって多くの学校を見てきてわかったことは、日本の学校で働く教師には一般的に2種類の専門的な学びの機会が提供されているが、教師が教室で教師としてよりよい仕事をし続けるためのスキルセットを身につけることをサポートするという目標には達していないと考える。

  • 「内部研修・外部研修」:学校のリーダーが教師の内部研修の企画や、外部の研修センターやワークショップに派遣するだけでは、教師が適切なスキルアップを受け、教室に戻ったときに指導のアプローチが改善され、全体的にプラスの影響が与えられることは不十分である。さまざまな教員研修では、教育の理論や教育学的な知識を学ぶことが一般的であるが、実際の教育現場との乖離が問題となることがある。それは実際の授業運営や生徒とのコミュニケーションなど、実践的なスキルや問題解決能力を養う機会が不足しているからである。さらに教員研修は多くの内容を短時間で学ぶ必要があるため、時間が限られている。その結果、深い理解や実践に必要な反復学習の機会が制約され、研修の成果が限定的になる。教員研修は新たに学んだスキルや知識を実践に活かすための長期的なフォローアップが必要である。それは研修終了後にサポート体制が不足していると、実際の教育現場での成功につながりにくい場合があるからである。
  • 「授業研究」:授業研究も、特に日本において、教育現場で広く用いられている研修のアプローチであるが、教師の専門能力開発をサポートするという点では、「授業研究」にはいくつかの課題や問題点がある。例えば、授業研究は多大なリソースを必要とする時間のかかるプロセスである。教師は、授業を計画し、観察し、振り返る時間が必要であり、すでに多忙なスケジュールの中で対応することは困難であるため、その結果、プレゼンテーションのスタイルや教材の変更など、表面的な修正にとどまることもある。更に授業研究に力を注いでも、得られた知識が実際の授業の有意義な変更につながる保証はない。また、授業研究が終了した後も、教師が得られた知見に基づいて授業実践を改善し続けるためのフォローアップが不十分であることが多い。

この2種類の研修の在り方を比較すると共通する問題点は多々あるが、一番は、研修の内容がどれだけ有意義なものであっても、研修後の長期的なフォローアップがない限り、教師の指導のアプローチの向上に繋がりにくい。教員研修の計画段階からより具体的なニーズを把握し、実践的な内容や長期的なフォローアップを盛り込む体制を整えるためには、「実践コミュニティ」(Communities of Practice)が実現されやすい学校環境と学校文化を発展させる体制が必要と考える。実践コミュニティとは、エチエンヌ・ウェンガー(Étienne Wenger)が提唱した社会的学習理論に基づくコミュニティのことを指す。ウェンガーは学習とコミュニティの関係を研究し、彼の著書『Communities of Practice: Learning, Meaning, and Identity』でその理論を詳しく説明している。ウェンガーによれば、実践コミュニティは共有の関心事や目標を持つ人々のグループであり、彼らは共同で学びながら知識や経験を共有している。これらのコミュニティは、メンバー同士の対話、共同作業、問題解決、経験の共有などを通じて、メンバーの学習と発展を促進する。メンバーは共通の関心事や専門知識を持ち、お互いに学び合いながら、個人的な成長や共同体の発展に貢献する。このような「学習する組織」こそ、国際バカロレア機構(IB)が世界中の認定校に望む姿である。

IB認定校は、認定を受けた後も5年おきに学校のコミュニティ全体がどのような「学習する組織」であるかについて評価を受けることが認定を継続する条件となっている。「IB のプログラム評価の目的は、学校が、IB のプログラムを実施し開発するためのキャパシティーを継続的に高め、教師とリーダーの実践を向上させることで児童生徒の成果に対してより大きな影響を及ぼせるよう、サポートすることにある。」(IBO, 2022) 全てのIB認定校は、共通の目標を達成するための協働と協力を重視することが期待される。学校全体の成果や生徒の成功に向けて、教師、スタッフ、生徒、保護者が協力し、役割を果たすことも重要視される。そして何よりも、教師やスタッフの専門性の向上を重視し、教育研究やプロフェッショナルな成長の機会を提供し、教員やスタッフの能力向上を支援することで、より質の高い教育が実現されることが期待される。

学校の教師により良い教師としてなり続けるための研修を実現することは、どの学校にとっても大きな課題として思われるが、一つ手っ取り早い解決法がある。それは、日々の授業を「研修」としてみなすことである。実際の授業は、教師が生徒と直接関わり、教育の現場でスキルを磨く最適な場所であるため、日々の授業を研修としてみなすことで、以下のような利点が考えられる。

  • 実践的な経験の獲得: 日々の授業は教師が新しい教育手法や教材を実際に使って試すことができる場であるため、生徒の反応や理解度をリアルタイムで確認することで、教師は教育の効果を評価し、改善する機会を得ることができる。
  • フィードバックの取得: 日々の授業を研修として捉えることで、同僚や上司、生徒からのフィードバックを積極的に受け取る文化が生まれる。フィードバックを通じて、教師は自らのスキルや教育手法の向上に向けた示唆を得ることができる。
  • 反省と成長の機会: 日々の授業を研修として意識することで、教師は自らの教育実践を常に見つめ直し、反省と成長を促進することができる。成功体験や課題を振り返ることで、より効果的な教育手法を見出すことができる。
  • 学びの継続性: 日々の授業を研修として意識することで、教育への意欲や学びの継続性が高まる。教育のプロフェッショナルとしての自覚が強まり、教師はより熱心に専門能力の向上に取り組むことができる。

日々の授業を研修として重視することで、教師は持続的な成長を遂げ、教育の質を向上させることができると考える。また、学校や教育機関も教師の研修を支援し、日々の授業がより有意義な学びの場となるようにサポートすることでいずれは本当の意味での協働の文化が生まれることにつながると考える。それは、学校内で実践コミュニティの繁栄を可能にする環境であるとも考える。だが、学校組織としての協働の文化は自然に生まれるものではなく、学校のリーダーが意図的に教員同士の自由な学び合いの環境とそれを維持するための文化を発展させるために計画を立て・行動に移し・結果を振り返るプロセスを繰り返し行う必要性があると考える。このプロセスを繰り返しながら、日本のIB認定校が組織としてどのように変化していくのかを研究していきたい。

参考文献

  • International Baccalaureate, (2022). プログラム評価の手引き, 非営利教育財団 国際バカロレア機構, 15 Route des Morillons, 1218 Le Grand-Saconnex, Geneva, Switzerland
  • OECD (2020). TALIS 2018 Results (Volume II): Teachers and School Leaders as Valued Professionals, TALIS, OECD Publishing, Paris
  • Wenger, E. (1998). Communities of Practice: Learning, Meaning, and Identity. Cambridge University Press.