鈴木美枝子先生「こどもまんなかの食生活支援」について考える(2)

2025.09.01

現在、こども家庭庁では、「こどもまんなか社会」の実現のための取組みがさまざまになされています。2023年12月には「はじめの100か月の育ちビジョン」が策定され、こどもの権利と尊厳を守ることが掲げられています。これは、子どもの気持ちを尊重しながら大人がかかわっていくことの重要性を示唆しているともいえるでしょう。

生活の営みの中で欠かせない「食」に関する支援においても、子どもの気持ちや意志を尊重しながら進めていく必要があると思います。また子どもの気持ちや意志を尊重していくためには、どのように支援をしていけばよいのか、さまざまな角度から考えていくことが望ましいと感じています。例えば、第72回日本小児保健協会学術集会におけるシンポジウム4「こどもまんなかの食生活支援―『幼児期の健やかな発育のための栄養・食生活支援ガイド』を元に考える」―」でも、食事づくりに関わる機会の重要性に関するエビデンスについては多田由紀先生がご紹介くださいましたし、子どもの口腔機能の発達によって、食べやすい形状が変化していく様子については、船山ひろみ先生がご紹介くださいました。そして、支援の方向性がどの職種であっても同じ方向を向いていく必要性については、衞藤久美先生が支援ガイドのねらいとともにお話してくださいました。

加えて、私からは「はじめの100か月の育ちビジョン」にもある「『安心と挑戦の循環』を通してこどものウェルビーイングを高める」ことにも通ずる、保育・幼児教育施設でのこどもをまんなかにした食生活支援の事例を紹介させていただきました。「はじめの100か月の育ちビジョン」の中では、子どもの育ちには「安心」と「挑戦」の繰り返しが大切であることが掲げられていますが、食生活支援においても、子どもが安心して「食べる」ことができる環境を作ることで、子ども自身が「食べたい」「食べてみよう」という気持ちになることが大切ではないかと考えます。

私が紹介した事例は、それまで友達とのかかわりが希薄で、食へのこだわりも強く、白いものしか食べられなかった子どもが、保育者とのかかわりの中で安心して園生活を過ごすようになり、やがて自分が興味のあるものに出会い、集中して取り組む姿がみられるようになっていく男児についてのお話です。彼は少しずつ友達とも良好な関係が築けるようになり、食べることにも意欲的になっていき、いろいろな食材が食べられるようになりました。まさに、こどもをまんなかにして、周囲の保育者や保護者が手を取り合い、その子どもの周りにいる友達も含めてお互いが良好な関係性で結ばれていく中で成し得た支援であったのではと思います。保護者の方も、保育者が子どもの特性を理解しながらその子どもの気持ちに寄り添うかかわりをしていたことに、大きな感謝の意を示していたようです。子ども自身が安心して生活していくことができる環境を作ることで、いろいろな食材を食べることに挑戦していくことができたのではないでしょうか。「食」は生活の一部であり、人間関係をも含めた周囲の環境とも大きく連動していることが伝わってくる事例でもありました。

このように、保育・幼児教育施設においては、保育者ら職員と保護者が連携することで、日々の生活を営みながら自然な形で「こどもまんなかの食生活支援」をすることができる場であるといえるでしょう。

参考文献