大豆生田啓友先生保育の質の確保と向上のための取組③-「研修コーディネーター」(Yサポ)養成
2026.05.07
地域の保育の質向上のために「主体的・継続的・協同的」に学び合う研修体制の構築が不可欠であり、その取り組みとして、「往還型研修」および「公開保育」について述べてきました。しかし、この「公開保育」が円滑に進むためには、その「伴走者」としての「コーディネーター」あるいは「ファシリテーター」の存在が不可欠となります。それは、単なる「指導・助言者」とは異なる、実践を行う保育者の「伴走者」であり、同僚間や公開保育に参加する人をつなぐ「仲介者」としての学び合いの場を継続的にデザインしていく役割が大切です。それをここでは、「研修コーディネーター」と呼ぶこととします。この研修コーディネーターを地域の研修に取り入れる事業は、多くの自治体で広がり始めていますが、ミドルリーダー層を研修コーディネーターとして位置付けているケースが多いことも特徴的です。
横浜市では、それを「Yサポ」(「保育・教育質向上サポーター事業」)と呼んで、市全域でその養成に取り組んでいます。それは、「保育・教育の質を向上する取組を推進するため、保育・教育施設等を訪問し、園内研修や公開保育等を通して、保育を伴走的に支援する人材(Yサポ)を育成する事業」です。また、「Yサポの活動を通し、地域の保育・教育施設同士が横のつながりを深め、相互に保育・教育の質の 向上を図ることを目的」としています。
Yサポの認定は、「① 横浜市こども青少年局が実施する往還型研修のうちいずれか(筆者らが行う「園内研修リーダー育成研修(「マネジメント」科目)」等)を修了、 ② 自園で園内研修、公開保育を実施した経験があること、③ 他施設の園内研修、公開保育の支援等を行う資質があると施設長が認めるもの」により行われています。つまり、まずは自園の保育実践の園内研修や公開保育をコーディネートするミドルリーダーとしての学びを基盤としているのです。しかもこの事業は、認定されたらそれで終わりではなく、ていねいな養成期間を設けています。初年度は学識経験者に随行して一緒に公開保育の伴走支援を行い、2年目はYサポ二人1組で一つの園に対して3回の継続的な伴走支援を行い、3年目はそれを一人で行うというようなプロセスです。
このような養成プロセスを有するため、Yサポ自身が他園から学ぶ機会となって自園の保育への還元が行われる他、Yサポ同士あるいは他園とのつながりの機会にもなり、地域での学び合いの広がりにもつながっています。初年度から2年目へと経験を重ねたYサポへのインタビュー調査(高嶋、三谷、大豆生田2025)では、「園を超えた“多義創発的”な対話と協働を志向する学び合うコミュニティづくりへの“動機づけ”になっていると同時に、そこでの“同伴者”としての役割の意義や可能性に対する学びも生み出されている」こと、「公開保育アドバイザー(学識経験者)の訪問への同行は、具体的な園の実践を通しての支援とその変容の過程を実際に体感し、対話を生み出す同伴的関係の築き方やその重要性について学ぶ機会となっている」ことを明らかにしています。
このYサポのような「研修コーディネーター」的な取り組みは、兵庫県の「ひょうご乳幼児教育・保育マイスター」などがありますが、その名称や具体的な取り組み内容は異なるものの、多くの地域で広がっているのです。さらに、こども家庭庁は、このYサポのような取り組みを「ミドルリーダーの活躍による保育の質向上推進事業」として事業化しています。これは、この連載コラムでもすでに紹介した厚生労働省の「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」における、「地域における支援人材の確保・育成」の一環とも捉えられるでしょう。これからは、すべての園が、保育の質の確保と向上のために、地域の(実践を持ち寄って継続的に行う)研修や支援人材(研修コーディネーター)との連携・協働のもとで保育を行っていく時代に入ったのだと思います。
引用文献
・髙嶋景子・三谷大紀・大豆生田啓友(2025)「保育の質向上を支える地域における『保育研修コーディネーター』に関する研究(1)」日本保育学会第78回大会、ポスター発表




