坂野先生:教育学研究あれこれVol.2:研究を進めるための戦略

2013.08.12

前回記したように、研究テーマを設定するために、私は大学院進学後に時間を要しました。このため、大学院入学後の研究でのスタードダッシュに遅れ、修士課程を3年かけて修了することとなりました。当時は、人よりも遅れることへのあせりが強くありましたが、何とか修士論文を書き上げ、博士課程(後期)に進学しました。

博士課程で最初に重要な作業となったのが、修士論文の出来不出来を自分で冷静に評価することです。資料が入手できず、必要な内容が埋まっていない部分や、先行研究の整理が不十分な部分等、自分の研究を今後進めるために、何が欠けているのかを考えることとなりました。戦後ドイツの中等教育研究では、大学進学コースであるギムナジウムの研究には一定の蓄積がありましたが、それ以外のコース、とりわけ職業教育についての研究蓄積があまり十分とはいえないことが明らかになりました。

そこで、先行研究のあるところをまずは整理し、次に先行研究の少ないところをドイツにおける研究に進むという研究の順番を決めました。ちょうど、ギムナジウムから大学への進学コースでは、1972年に大きな改革が行われ、ドイツではその成果を議論している時期でした。博士課程にいる間にギムナジウムの研究にある程度区切りをつけ、博士3年の後期からドイツに留学しました。留学先のベルリン工科大学には職業教育を専門とするグライネルト教授*がおられ、多くの示唆をいただきました。

ここで職業教育・訓練政策についての大枠がイメージできてきたので、以下、次のように博士論文を構成することとしました。第1部はギムナジウムを中心とした中等普通教育政策(1950-80年代)を、第3部は職業教育・訓練政策(1950-80年代)を、そして第3部で普通教育と職業教育の統合政策(1970-80年代)を、という構成です。第1部はすでにほぼ終了していたので、第2部、そして第3部という順番に作業することとしました。

しかし、すぐには研究に取りかかることができませんでした。ドイツ滞在中(1989-90年)に「ベルリンの壁」が崩壊し、東西ドイツが統一するという大きな歴史的出来事に遭遇することになったのです。ここで、選択を迫られました。歴史的出来事の体験を重視するのか、予定通り研究を進めるのか、です。考慮の末、今しかできない歴史的体験を優先することとして、研究は後回しにすることとしました。この時期に多くの人と出会い、インタビューをし、通常時にはできない体験をしたことは、後になってから物事を考えるための貴重な財産となりました。人生、「急がば回れ」です。

  • グライネルト(寺田ら訳)(1998)『ドイツ職業社会の伝統と変容』ミネルヴァ書房