坂野先生:教育学研究あれこれVol.4:多くの視点を持つ重要性

2013.08.23

博士論文を書き終え、自分がまとめた研究は、どの国でも共通する課題なのか、それともドイツに特有のもので、普遍的な有用性はあまりないのか、が気になるようになりました。また、一つの大仕事を終え、新たな主たる研究テーマを考える時期にきていました。

ちょうどこの頃から研究所の所員を中心として、共同研究によるいくつかの国の比較研究に参加する機会を得られるようになりました。そこでドイツとそれ以外の国の様子を比較検証する機会をえました。また、科学研究費やそれ以外の研究資金による外国への調査が容易になってきた時期でもあり、ドイツ以外の国への調査にも出かけるようになりました。例えば、オーストラリアは諸外国の教育政策を吟味し、いわば「良いとこ取り」をしていること、ヨーロッパ各国では、教育政策や教育研究の情報交換が盛んであること、アメリカは州によってばらばらであった教育政策が、連邦政府の補助金によって一定の方向に誘導される傾向が強くなってきたこと、等がわかってきました。

また、2001年には文部省が科学技術庁と統合して文部科学省となり、国立教育研究所も国立教育政策研究所となりました。研究部も改組され、私は教育経営研究部の室長から教育政策・評価研究部の総括研究官となりました。教育政策全般を視野に入れ、その時々の政策に有益となるような研究情報を強く求められるようになりました。

文部科学省に変わった頃からは、常に教育改革が求められる時代となりました。学力の保証、「生きる力」と教育課程、学校の自律性と学校評価、学校選択、学校と家庭・地域社会の連携、キャリア教育等々です*。こうした多様なテーマを各国と比べながら、日本とドイツの特徴を比較分析することは、知的な興味をそそられました。

日本の教育政策は、戦前にはドイツの、戦後にはアメリカの、そして現在ではイギリスの影響を強く受けています。こうした他国の政策をどのように加工して取り入れるのかは、それぞれの国が単なる模倣ではなく、自国の制度に合うように取捨選択する基準が潜んでいます。現在の日本の教育政策は、教育予算(資源の投入)と教育の成果(学力の向上等)をどのように考えるのか、という点が大きな課題となっています。

例えば、多くの国で学校の外部評価(第三者評価)を実施しましたが、その後は予算が削減されたり、廃止されたりしています。これは学校の外部評価のみでは、教育の効果が上がらないこと、評価後の支援がより重要であること、等が確かめられてきたからです。また、各国では教育のデータ化が進んでいます。日本も遅ればせながら、学力調査結果の分析に力を入れるようになってきました。

物事を考えるためには、1つのものを深く掘り下げるとともに、幾つもの視点を持つことが大切です。

  • 大桃敏行編著(2007)『教育改革の国際比較』ミネルヴァ書房
    小杉礼子編著(2006)『キャリア教育と就業支援』勁草書房