山口先生:「正義」の源流Vol.3:ハムラビ法典の内容-均等性としての正義-

2013.11.05

ハムラビ法典は弱者(下位階級)に対する配慮もなされているので、それらもみてみましょう。

「もし医者、自由人の深き傷を青銅の小刀にて手術して、彼を救くひ、或ひは自由人の腫物を青銅の小刀にて除き、彼の眼を癒したる時には、彼は銀十シケルを受くべし。」(第215条)
「もし、その患者平民たる時には、彼、銀五シケルを受くべし」(第216条)

この法典で人は三つの階級(上から「自由人」「平民」「奴隷」)に分けられていますが、上位階級である自由人からは多くの報酬(銀十シケル)を受け、その下の階級である平民からは少ない報酬(銀五シケル)を受けることが上記条文において示されています。

また、以下に見られるように、「手術」と「整骨」の労力が区別され、「手術」では「自由人-銀十シケル」(第215条)「平民-銀五シケル」(第216条)であった報酬が、「整骨」ではその約半分になります。

「もし医者、自由人の挫けたる骨を癒し、或ひは病める肉体を恢復せしめたる時には、患者は、その医者に、銀五シケルを支払ふべし。」(第221条)
「もし患者、平民たる場合には、彼、銀三シケルを支払うべし。」(第222条)

こうした規程はまさしく労力に応じた取り分、身分の上下に応じた支払いであり、「富者からは多く、貧者からは少なく」という現代の福祉政策にも通じるものと考えることができます。

こうした上記引用条文からしても、ハムラビ法典は決して復讐を目的とした法典ではなく、また単に同害の原理だけを目的とした応報刑による法典でもなく、「動機や身分や労力」などに応じて「各自に彼のもの」を与えて釣り合いをとろうとする「正義の法典(正義を目指す法典)」と解釈することも可能なのです。(続)