寺本先生:地図力を子どもに育てよう!Vol.4:もっと地図を!―地図学習が促す子どもの空間認識―

2013.12.10

狭まる現代っ子の行動範囲

現代日本に住む子どもは、買い物や旅行機会でかなり遠くに出掛ける経験が増えています。その反面、近隣における歩行体験が絶対的に不足しています。過保護もあるのですが、ちょっとした習い事までの往復でも親が送迎しなくてはならないほど安全が保障されていないことも問題です。通学行為にしても道草をゆっくり愉しんでいる子どもは少なくなっています。通学路の道路の形は、昔と変化していなくても景色が激変してしまった地区も多いでしょう。例えば先日、東京都中央区佃島地区を訪れましたが20年ほど前と比較して景観が激変していることに気が付きました。海辺の町にありがちな伸びやかな佃島地区の景色は全く消失し、児童が通学路で使用する街路の周囲には30階を越す高層マンション群がいくつも林立していたのです。当地の小学校関係者に尋ねたところ、マンションにのびやかな景色が阻まれ、周りの町とのつながりを感じることができない状態に陥っているというのです。見上げる空にも閉塞感が感じられるほどになってしまいました。さらに当地の子どもの学力面として街路地図を判読させる社会科の問題の正答が、著しく低下しつつあると伺いました。このことは、歩行体験の減少とともに景色を読取る力の発達にも空間認識や地図読みが関係していることが示唆され、子どもと地図との関係を考える上で重要な問題点を含んでいます。

もっと地図とふれ合う学習を

頭の中の地図形成に深く関係する学校教育に生活科と社会科があります。前者においては子どもの空間定位を促す「学校たんけん」や「通学路たんけん」「公園までの道」「町たんけん」などの授業場面があります。これらの授業場面は教師主体というより、子どもの生活圏の形成を意図したもので、学校という比較的狭い建築空間の認知に始まり、次第に通学路という認知地図の軸になる経路の認知や学区より狭いが近隣空間の認知を促す貴重な機会となっています。でも、生活科の学習指導において地図が意識された指導は意外に少ないのです。平面地図はもとより、デフォルメされた絵地図さえも生活科の授業では、用いられていません。6歳から8歳の年齢段階はピアジェの発達心理学において具体的操作の段階に移行しつつある時期ではあるものの、現実には前操作的もしくは感覚運動的な段階に留まっている子どもも多いのです。生活科から社会科学習へと空間認識の育成が断絶している事実が横たわっており、系統的に地図指導がなされていないのです。生活科は自分と自然や社会とのかわかりを重視する自己中心性の強い内容を持っています。このことは場所に愛着を持たせ、空間認識の形成にとっても特別の地点への興味づけを強める効果があります。でも、7歳後半に至っても通学路さえ方向感や距離尺度が形成されずに留まる場合があり、地図教育としての発達を期待できないのが現状なのです。生活科にもっと地図をです。

3年社会科の地図学習に問題がある

日本の教育課程では社会科において小学校3学年に至って初めて平面地図を扱います。扱い方はこうです。学校周辺の道路が印刷されている白地図を持参し、班で分かれて探検し、いろいろな目印になる建物や地名を地図に記入する学習を進めます。つまり最初から与えられた学区の平面地図を目にするわけです。学区程度の地図から拡げ、すぐに自分の住む市全体の平面地図を扱い、市民的な資質の基礎である自治体の範囲を理解するように扱われています。でも、未だ絵地図しか読めない子どもを真上から見下ろしたように学区や市域をイメージさせるかは、意外と難しいのです。例えば、学区の地図づくりの場面で平面地図の上に見学した消防署や駅、スーパー、公園などを位置づける場合でも、それらの建物がどちらを向いているか、入り口の場所にこだわる子どもの場合には容易に学区の平面地図を理解できないことが教育現場で報告されています。消防署の入り口が南北に伸びる道路の東側にあったとすれば、東に位置口を設けた消防署の写真を貼り付け、同時にその上に消防署の地図記号を貼り付ける作業を丁寧に行わなければ、この時期の子どもは理解できません。こういった手間のかかる作業を省いて指導した場合、街路に関する頭の中の地図は形成されにくいと言えます。空間認識形成に深くかかわる生活科と社会科。目下、この問題にわたしの関心は集まっているのです。

(教授 寺本潔)