長野先生:「授業設計」に基づく授業の構築Vol.1:授業をつくる

2014.02.10

授業の意義

教育の目的に照らして用意された内容を、生徒に効果的かつ能率的に習得させるためには、具体的な指導のための計画と、効率的な学習活動を促進する方法なり技術が必要で、ある。これが、学習指導を行なう「授業」の問題である。つまり、授業とは、学習目的達成のための生徒の活動に対する、教師の意図的で系統的・計画的・組織的な助成作用を指す。
では、生徒の「学習jあるいは「学習活動」とは何か。
一般に、遺伝的で生得的な諸能力の年齢に応ずる発現を「成熟」と言い、その発現に留まらないで諸能力を得ようとする活動ないしは得られた能力のことを「学習」と呼ぶ。
成熟が身体的・生理的な内側からの発達であるのに対して、学習とは、主体と環境との相互交渉によって、むしろ外側との関係において内面に成り立つと言える。成熟が先天的なものに多く左右されるのに対して、学習は後天的な経験による習得であると言うことができる。
成熟と学習との結びつきあるいは絡み合いによって、人聞は生成・発達を続ける。とりわけ青少年期は、成熟を強化し確実にするために多くの学習を必要とし、限られた成熟を補うためにもさまざまな学習が工夫されなければならない時期である。ここに、教師が生徒の学習及び学習活動を慎重に計画し、着実に指導しなければならない必要が生まれてくる。
総じて、人聞は、特に教えられなくてもさまざまなことを自分で学習する。教師や親による特別な指導がなくとも、生徒は生徒を取り巻く環境との相互突渉によって、いつでも何かを学習している。人間の本来的な成長への欲求が、生徒に自ら学習させるのだと言ってもよい。まさに、生活が学習になっていると言えよう。生徒は、日常の生活の中で、自然な形で学習することが可能なのである。
しかし、現実の生活環境は、複雑で不安定である。生徒を取り巻く環境が、生徒の成長に対していつでも有効に働くとは限らない。自然的に行なわれる学習では、生徒の成長や発達にとって望ましくないことを学んでしまう危険もある。また、生活が必ずしも組織立った教育的環境でもないため、生徒がその成長や発達に必要なことを十分に学ぶわけにもいかない。自然な形での学習は、偶発的で断片的で偏向的であることが多い。
ここに、生徒の望ましい成長や発達を意図して、それを促進したり助長したりするように
生徒の学習活動を援助し指導する「授業」の意義がある。

生徒は、教師の側からの働きかけがなくても自ら学んでいくのは事実である。しかし、生徒は、授業という形で教師からの指導を受けることによって、生徒の人間としての成長や発達に対してより善いと考えられるものを、より効果的かつ能率的に学ぶ乙とが期待されるのである。

つまり、学校における授業の基本は、教師が意図的・計画的に生徒の学習する場を設定し、そこで生徒たちが効率的に学習活動を展開するよう組織的に指導することにある。

システムとしての授業

図1. 方法の最適化図2. 授業のシステム化

授業を行なうのは、生徒の学習を自覚的に生起させるために他ならない。教師は、この生徒に、乙の目的で、この内容を効率的に指導するには、どの方法が最適であるかを慎重に計画しなければならない。教師には、図1のように、生徒・目的・内容に照らして、授業の方法を厳選し活用する力量が必要である。

では、その授業の仕方が有効なものであるかどうかは何によって確かめられるのだろうか。
それは、授業を行なった結果、生徒が所定の授業目標を達成したかしないかという事実によってである。
授業は、本来、特定の目標を生徒に確実に学習させることを意図して、計画的・組織的に働きかけることによって、実際にその目標を生徒に達成させる活動である。従って、たとえその教師が最も良いと思う方法で教えたとしても、生徒たちが所定の目標に達しなければその方法は有効・適切な方法とは言えないのである。
このように、授業の過程を、一定の目的を果たすための諸手続きの集合として考えることは、授業を1つの「システム」として捉えることである。
システムとして授業を考えるということは、授業の目標を最も効率的に達成するために指導の内容や媒体などを有効に組み合わせて、実際に授業を行ない、そしてその結果を評価して、更に各要因やその組み合わせ方を改善し、絶えず最適の組み合わせを求めていくことになる。その基本は、図2のように、計画→実施→評価を繰り返すことにある。

こうしたシステム的発想に立つ授業の特徴は、教師の指導と生徒の学習の成立とを切り離しては考えないで、もし生徒に学習が成立しなげればそれはシステムの責任である、という考えに基づいている。つまり、授業の結果、生徒に所期の変化が実際に生じたことによって、その授業は成功したと言えるのであり、教師は教えたと言えるのである。

授業を1つのシステムとして考えると、教師の機能は極めて重要な役割を担う。一般に言う授業の実施の仕方について技量が優れているというだけでなく、システムの設計者としての能力が求められる。また、システムの評価者としての能力も求められる。更に、評価に基づいてシステムを修正し改善する能力も必要になる。
教師は、一人ひとりの生徒に最も効率的に目標を達成させるため、最大の効力を発揮する授業を、綿密に計画し撤密に実施しなければならない。
そのためには、指導のための目標や内容の性質、指導の方法や技術の種類、学習者である生徒の特性、また指導者である教師自身の特徴といった諸要因の交互作用に照らして、個々の生徒について授業過程の最適化を図っていかなければならない。