坂野慎二先生:教育改革の日独比較Vol.4:高校と進路
2015.11.20
前回は中学生の居場所づくりについてまとめました。今回は高校と進路について考えて見ましょう。
1.日本の高校―勉強しなくても卒業できる―
近年、高校を卒業して大学に進学する人が増えています。平成27年3月の卒業生のおよそ55%が大学などに進学しています。専門学校などへの進学を合わせると7割以上の卒業生が進学しています。一方で高校を卒業して就職する人はおよそ18%です(「学校基本調査」速報値)。
こうした状況において、入学者を選ぶことができるのは一部の有名大学だけです。多くの高校生は、どこかしらの大学に入学することが可能となります。そうすると、大学入試のために勉強を、というこれまで高校の教員が使っていた勉強への動機付けはうまくいかなくなります。高校生が「やる気」をもって、勉強してもらうことが難しくなっています。Benesseの調査では、高校1・2年生の宿題以外の学習時間は平均で1時間に達していません。日本の高校は入学も卒業も楽なのかもしれません。
2.ドイツの高校―関門となる卒業試験―
ドイツでは、中学校から学校の種類が分かれることは前回お話ししました。大学へ進学するコースはギムナジウムです。最後の2年間は卒業試験(アビトゥアと呼ばれます)に向けて必死に勉強します。というのも、ドイツでは卒業試験=大学入試なのです。ここで良い成績をあげなければ、希望する大学の学部に進学できない可能性が出てくるのです。
試験は州毎に統一して行われています。論述試験(3科目)、は3~5時間をかけて、自分の考えをまとめます。マークシート方式ではなく論述式なので、暗記型ではとても太刀打ちできません。自分の思考力や表現力が問われます。また、面接による試験科目もあります。その人の知識や思考が本物かどうかが厳しく評価されます。
3.考える視点
日本でも「高大接続」という考えに基づき、センター試験に代わる新たな試験が準備されています。高校での基礎知識を確認したうえで、自分のやりたいことをしっかりと考えて大学に入学し、学修していく環境を整える必要があります。
近年提唱されている「キャリア教育」は、新たな勉強への動機付けとなる可能性があります。大学に入ることが目的ではなく、大学で何を学び、自分は将来何をしたのかを考える必要があります。そのためには、いろいろなことを知り、考えることが大切です。大学に行かないにしても、何を基盤として自分の人生を描くのかをしっかりと考えることが大切になります。高校は授業やその他の活動を通じて、高校生に将来を考えてもらう必要があります。
[関連文献等]
- ベネッセ教育総合研究所「第2回 放課後の生活時間調査 報告書 [2013]」
(http://berd.benesse.jp/shotouchutou/research/detail1.php?id=4700) - 広田照幸(2013)『大衆化する大学-学生の多様化をどうみるか』岩波書店
(教授 坂野慎二)