イエナ・プランの教師教育をめぐって

2018.08.20
佐久間裕之

イエナ・プランは、ドイツのペーター・ペーターゼンがイエナ大学附属学校で始めた内的学校改革の理論・実践の総称である。それは新教育の国際的組織NEF(New Education Fellowship)が行った1927年8月の第4回国際会議で初めて報告され、昨年は発表後90年という節目を迎えた。現在、イエナ・プランは発祥の地ドイツはもとより、その隣国オランダを中心に世界的な広がりをみせている。

すでに19世紀末ごろから、欧米では近代教育を特徴づける教師(大人)中心、学年学級制、一斉授業方式などを改める動きが生じていた。こうした動きは総称して新教育運動、ないし簡明に新教育と呼ばれ、教育界に大きな足跡を残してきたのである。例えば、都会の喧騒を離れたところに全人教育を実践する寄宿制の新学校が誕生したり、児童中心主義や学年学級制の解体、個別学習やグループ活動を推進するなど、現代に生きる革新的な試みが数多く積み重ねられてきた。イエナ・プランもまたそうした動向の一翼を担ってきたのである。

近年、日本でもイエナ・プランへの関心が高まってきたように思われる。日本イエナプラン教育協会の活動やイエナ・プラン実践校創設への動きなどがその証左である。

ところで、NEFは現在もWEF(World Education Fellowship)と改称し活動を続けている。この団体はロンドンに本部を持ち、その日本支部(世界新教育学会)の事務局は私の研究室にある。ドイツの新教育運動を研究してきた私は、教育の理論と実践の往還的関係の中で、よりよい教育を模索し続けたペーターゼンに、そしてイエナ・プランに注目し研究を続けてきた。ドイツ現地でペーターゼンの親族や多くの研究者と出会い、ペーターゼン自身が活躍した当時のイエナ・プランに関する記録や関係資料の研究、そしてドイツ及びオランダのイエナ・プラン校の現地調査を行ってきた。そうした研究の一端は次のとおりである。

①日本学術振興会科学研究費補助金(科研費)基盤研究(2013~2015年度)  
 「イエナ・プランにおける異年齢集団の構成法に関する研究」(研究課題番号:25381044)
②日本学術振興会科学研究費補助金(科研費)基盤研究(2016~2018年度)
「イエナ・プランにおける異年齢集団の質保証に関する研究」(研究課題番号:16K04487)
 *現在継続中

さて、このたび福岡教育大学大学院教育学研究科教職実践専攻(教職大学院)教授で国語科教育と教師教育についてご研究の若木常佳先生が、7月13日に来学され、私とイエナ・プランの教師教育について研究協議を行うこととなった。若木先生は教職大学院で教師の省察力を高めることを意図した授業や、授業分析を担当しておられるとのことである。そうした観点から近年イエナ・プランに着目され、日本イエナプラン教育協会代表の久保礼子氏とかかわりを持ち、またオランダのイエナ・プラン研修会に参加するなど、精力的に研究を続けられている。若木先生は久保氏からのご紹介で私の研究に関心をお寄せくださったとのことである。本学訪問のご意向を記したメールの中で、若木先生は次の拙論をお読みになられ、「イエナ・プランにおける教師教育のことをご教授いただけたら」とお書きになられており、大変恐縮した次第である。

①「イエナ・プランにおける異年齢集団と教師の力量形成——ドイツ・ローゼンマール校を事例として——」(『玉川大学教師教育リサーチセンター年報』第4号, pp.57-66)
②「イエナ・プランにおける異年齢集団と教員研修——GJPの「ディプロムコース」を事例として——」(『玉川大学教師教育リサーチセンター年報』第5号,pp.19-29)
③「ペーターゼンにおける「教育共同体」思想の特質——『自由で一般的な国民学校のイエナ・プラン』に着目して」(『論叢:玉川大学教育学部紀要 2016』pp. 49-67)

実際に若木先生とお会いしたところ、先生はこれらを丹念にお読みになられており、特に教員研修に関する真摯な質問を数多く投げかけてくださった。自分の拙論がこれほど熱心に読まれたのを大変うれしく感じた。私は「イエナ・プランにおける異年齢集団の構成法に関する研究」(研究課題番号:25381044)の成果をまとめた『イエナ・プラン研究序説―ドイツにおける異年齢集団の問題を中心として―』〔平成25~27年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号25381044)「イエナ・プランにおける異年齢集団の構成法に関する研究」研究成果報告書、2016年〕も若木先生に謹呈し、予定の時間を大幅に超えて二人の研究協議は続いた。

若木先生はこの夏、できれば再度オランダを訪問されたいとのこと、またの再会が楽しみである。