原田眞理先生コラム3:National Center for PTSD--Skills for Psychological Recovery(SPR)

2018.11.05

第1回に書いたように、トラウマの主な研究は戦争に行った兵士たちの研究から始まっています。National Center for PTSDの定義するトラウマは以下の通りです。

  1. 戦争体験
  2. 性的または身体的暴行
  3. 親しい人の暴力的または偶発的な死や怪我
  4. 子供の性的または身体的虐待
  5. ひどい車の衝突事故などの深刻な事故
  6. 火事、竜巻、ハリケーン、洪水や地震などの自然災害
  7. テロ攻撃

これらのこころの傷には、特別な治療法を用います。治療としては、持続エクスポージャー法(Prolonged Exposure)、EMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing)、認知処理療法 (Cognitive Processing Therapy)という専門の治療を行います。
また、National Center for PTSD とNational Child Traumatic Stress Networkが作成したSkills for Psychological Recovery(SPR)という認知行動療法の考え方を用いたこころの回復についての冊子がありますので、紹介したいと思います。これらは、兵庫県こころのケアセンターが日本語版を出しておられますhttp://www.j-hits.org/spr/。興味のある方は是非じっくり勉強してほしいと思います。SPRはPFA(サイコロジカルファーストエイド)が終わった後、ある程度落ち着いた状況のなかで提供されるものです。
かなりボリュームがあり、専門家がスキルを学ぶための冊子ですので、内容を簡単に説明することは難しいのですが、5つ目の要素である5.役に立つ考え方を少し説明してみます。

前回お示しした社会的再適応評価尺度にあるような出来事や、こころに傷を負ったり、動揺すると、人はnegativeな考え方をしがちです。通常なら考えないようなことを考えてしまったりもします。そこで必要なのが、表に示したように考え方を修正していく方法です。左側はよくある役に立たない考えです。この時にわいてくる感情をモニターします。そして、左側のよく自分にわいてくる考えを修正して違う考え方をしてみるのが左から3つ目の項目となります。その時の感情を4つ目に書きます。ここには例をあげていますが、空欄のワークシートを渡して、自分の考えや感情をモニターしてもらい記入してもらうこともします。これがSPRの5.の一部に相当します。このようにして、意識的に自分によく沸き起こるnegativeな考えや感情を意識的に修正していくことも大切なことなのです。皆さんも自分がよくする役に立たない考え方を見つけ、修正してみてください。そして、実際にトラウマの反応のためにnegativeな思考回路に入ってしまっている人を見つけた際に、この修正方法を教え、支援してください。

表:よくある役に立たない考えの例  (SPRを筆者が訳したもの)
よくある役に立たない考え
Common Unhelpful Thoughts
わいてくる感情
Result Emotion
対抗する役にたつ考え方
Alternate Helpful Thoughts
新たにわいてくる感情
New Emotional Response
物事はもう二度と同じように戻らないだろう
“Things will never be the same again.”
悲しみ
残念さ
絶望
こんなつらさが永遠につづくわけじゃない
こんな風に考えたら、これから先うまくいかなくなる
何もかもが昔のままではないが、変わらないものもあるだろう
先のことに目を向ける
希望がもてる
受容する
この世界は危険な場所だ
“The world is a dangerous place.”
恐怖
不安
不信感
この世界は、必ずしも危険なわけではない
ほとんどの時間、私は安全だ
この世界には、悪い人がいるのと同じように、良い人もいる
希望が持てる
良い未来に目を向ける
助けてくれる人がいることを信じる
落ち着く
誰も信じられない
“I can’t trust anyone.”
孤独感
誰にも会いたく無い
猜疑心
悲しみ
人を信じれば、助けてもらえる
私は自分で信頼できる人たちを選ぶことができる
信頼感が増す
猜疑心が軽くなる
希望が持てる
楽観的になる