坂野慎二先生:教育改革の成果をどのように伝えていくか第2回 ドイツの例2

2022.10.27

前回は、ドイツの教育改革の動向を中心にみてきたが、今回はドイツの教育改革の検証方法についてみていこう。

(3)教育改革の測定・評価・分析

こうした教育改革をどのように測定・評価・分析していくのかについて、KMK(常設各州文部大臣会議)は2006年に「教育モニタリングのための総合戦略」を決定した(2015年に一部改訂)。KMKが決定した手段は、①国際学力調査、②州間比較による教育スタンダードの到達状況の検証、③個別の学校の成績を州全体で検証するための比較テスト、④連邦と州共同の教育報告書の作成、の4つである。

  • 国際学力調査は、ドイツが諸外国と比較して、どのような位置にあるのかを継続的に調査し、学力向上の確認を行うことを目的としている。具体的にはOECDのPISA調査等である。
  • 州間比較による教育スタンダードの到達状況の検証について。ドイツは連邦制であるため、共通教育スタンダードを各州が作成する学習指導要領に反映させる必要がある。その進捗を確認していくことになる。このため、共通教育スタンダードに適応した試験問題を作成、プールし、経年的調査が可能となるような組織を設置し、学力を検証する必要が認識された。このため、IQB(「教育制度における質的開発研究所」)が2004年に設置された。2011年から州間比較調査(抽出調査、2015年から「教育トレンド調査」と改称)が数年サイクルで実施されている。
  • 個別の学校の成績を州全体で検証するための比較テストについて。こちらは州内の児童生徒すべてを対象とする悉皆調査であり、VERA調査と呼ばれている。当初は希望する州のみであったが、2006年以降は、各州で実施されるようになった。

以上のように、ドイツにおける教育改革の検証に必要な主要データは、①国際比較学力調査、②抽出による州間比較学力調査、③州内悉皆の学力調査、となる。

もちろん、これらの調査に加え、EUレベルで共通に設定された教育・訓練目標(「ET2010」や「ET2020」、坂野(2021)158頁以下参照)に対するデータも必要となる。具体的な目標の例は、①就学前教育参加率95%以上、②15歳者の能力が不十分な者の割合を15%以下とすること、③第三段階教育(高等教育及び後期中等後教育)に達する30-34歳の者の割合を40%以上とすること、④新規卒業者の就職率が82%以上とすること、等である。これらは連邦・州の統計資料等が活用されている。

(4)教育改革の結果や成果を誰がどのように解釈しているのか

教育改革を進めた場合、その結果や成果をどのように解釈し、どのように世に問うていくくのか、が課題となる。KMKが2006年(2015年改訂)に公表した「教育総合戦略」では、④「教育報告書」の作成があげられている。

ドイツでは、「教育報告書」のような形で、教育政策、教育改革を取りまとめることは、部分的には行われてきた。例えば「職業教育報告書Berufsbildungsbericht」(作成は連邦教育研究省BMBF)は1977年から、「教育財政報告書Bildungsfinanzbericht」(作成は連邦統計局)は1990年代後半から、それぞれ作成されてきた。教育全体を包括した教育報告書については、一時的に作成されたことはあるものの、定期的には作成されてこなかった。

PISAショックの後、KMKが教育報告書の作成を準備し、2003年に試行版が公表された。その後、2006年から2年毎にKMKと連邦教育研究省が共同で、ドイツ国際教育研究所(DIPF)の研究者グループに教育報告書の作成を委託している。このことによって連邦政府あるいは州政府の「お手盛り」ではなく、根拠に基づいた教育報告書の作成が可能になると考えている。

教育報告書は、就学前教育、初等教育、前期中等教育、後期中等教育、高等教育、成人教育等領域別にまとめられている。その際、児童生徒教育報告書に活用されているデータは、PISA調査等の国際学力調査、州間比較調査、州内悉皆調査等であり、分析はされているが、政策への示唆は行われていない。これを受けて、実際に教育政策を進める各州は、教育改革の立案し、実施していく。州議会選挙では、教育は重要な争点の1つとなっている。教育政策の立案・実施は議会・行政関係者が、検証・評価は研究者中心に行われているのがドイツの教育改革検証の特徴である。

参考資料

  • 坂野慎二(2017)『統一ドイツ教育の多様性と質保証』東信堂
  • 坂野慎二・藤田晃之編著(2021)『改訂版海外の教育改革』放送大学教育振興会