山口先生Vol.7:正直に生きることの難しさ

2017.02.21

確かに、正直な言動が他者を傷つけたり、苛立たせたりする可能性を否定することはできません。実際、インターネット上には、「なんでもかんでも正直に言えばいいと言うものではありませんよね」、「正直すぎる人は相手の立場とか気持ちとかまったく理解してないししようともしてない 自己中な人が多い」などの書き込みが数多く見られます。これらの主張は、正直であること、言い換えれば、“正直を美徳とし、それを大切にしなさい”という教えを否定するものであるかのような印象を与えます。少なくとも、正直であることへの不安や戸惑いを感じさせます。

恐らく、閉ざされた社会の中で生きることが可能であった時代には、正直であることで不安や戸惑いを感じることはなかったはずです。なぜならば、正直であることは、社会において必要とされる価値であると同時に、個人にとって成長をもたらす価値であったからです。しかしながら、グローバル化が進み、開かれた社会の中で生きることが求められる現代では、社会において必要とされる価値も個人にとって成長をもたらす価値も多様化しています。その結果、社会において必要とされる価値と個人にとって成長をもたらす価値が乖離してしまうことになります。そのため、正直であることが善きことであるということの絶対性や安定性が揺いでしまうのです。このような状況が、正直であることに不安や戸惑いを与えている最大の要因であると、私は考えています。