酒井先生現象の背景を読み取る力

2019.11.14

令和元年10月17日、文部科学省は「平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等問題行動調査」結果を公表しました。この調査は実施目的に“生徒指導上の諸課題の現状を把握することにより、今後の施策の推進に資するものとする。”と記されているように、生徒指導等に関わる児童生徒の課題を明らかにし、指導の参考とするものです。

主な調査項目としては、暴力行為、いじめ、長期欠席(不登校等)などがあり、校種別に結果がまとめられています。年度末に当該年度の状況をまとめた上で各学校は教育委員会に数値を報告します。最終的には文部科学省が集計し公表となります。また、この調査は統計法(平成19年法律第53号)に基づき実施され、正確な報告が義務づけられています。

今回の結果を受けて各紙新聞の主な見出しタイトルは、「いじめ最多の54万件」、「重大事態も急増」「不登校も最多16万人」など児童生徒の状況が引き続き憂慮されています。校種別では小学校での報告件数が、暴力行為、いじめ、長期欠席(不登校等)とも増加を示し、学齢期の早い段階から意図的・計画的に取り組む必要がありそうです。

ところで、この調査結果報告書には都道府県ごとの数値も掲載してあります。全国的な傾向を把握するだけではなく、他地域との比較は当該地区での取組を推進するきっかけになります。しかし、次のような疑問も顕在化しています。例えば、児童生徒1000人あたりのいじめ発生件数では、宮崎県が101.3件であるのに対して佐賀県では9.7件と報告されています。この項目に関しては、宮崎県が全国最多、佐賀県が最少です。言うまでもないことですが、両県は日本全体から見ればごく近くに位置する自治体です。

この数値から判断して、宮崎県はいじめが多く児童生徒にとって通学を躊躇するような地域で、佐賀はいじめの発生が少ないため学校に足を向けやすい県なのでしょうか。佐賀県の学校教職員がいじめの根絶に向けて積極的な取組を行っているのは事実でしょうが、一方宮崎県の関係者はいじめについて十分には対応していないのでしょうか。

全国的な傾向では、いじめの発見きっかけとして「アンケート調査など学校の取組みにより発見」が52.8%と最も多く、次いで「本人からの訴え」18.0%、「学級担任が発見」11.1%、「当該児童生徒(本人)の保護者からの訴え」10.2%などの順です。ところでこの項目に関する宮崎県のデータは、「アンケート調査など学校の取組みにより発見」が最多であるのは変わりませんが、その割合は何と84.3%であり、他の都道府県と比較しても最多の割合を示しています。

つまり、宮崎県の学校ではいじめを発見しようとする必死の取組によって多くを顕在化することができたと推察します。極端な仮定ではありますが、教職員など大人が児童生徒に関心を寄せず行動観察や状況把握に努めなければ、いじめを認知することはできません。このような状態ではいじめは発見できず、結果として多くの統計には表れない、いわゆる暗数が存在してしまうことになりかねません。

多数の児童生徒が生活する学校では、いじめは起こる可能性があるものと認識することが大切です。そして、いかに顕在化させ組織的に解決・解消に向けて取り組むのかについて検討し実行する必要があります。さらに理想としては、全学校教育活動を通じて児童生徒の良好な人間関係を構築するなど、いじめを未然に防止できる雰囲気が形成できるかがより重要であると考えます。そのために教職員は児童生徒の近くにいて相互理解を深め、一人ひとりの児童生徒の変化を察知し、組織的に取り組むことが肝要です。このような児童生徒理解を推進しようとする教職員のスタンスは、いじめへの対応だけに有効であるわけではありません。もちろん学習面の向上を目ざす上でも大きな効果を示すはずです。

今後もすべての教職大学院生に現象の背景を読み取ることの重要性を伝え、そのような意識をもった上で実践を重ねるよう求めていきたいと考えます。そして、5年後、10年後の各院生の姿を見聞することを今から楽しみにしています。

参考資料

平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について