松本修先生新しい国語科の評価の姿を探る

2020.06.01

問いは答えを限定するのか

2020年2月21日に行われた東京都小学校国語教育研究会研究大会に参加した。日程の最後に、菊池英慈教科調査官の「新学習指導要領を踏まえた国語科における学習評価の改善」と題した短い講演があった。時間不足で、ほとんど資料を示したのみであったが、最後に、次のような演習問題を提示した。
第1学年及び第2学年〔思考力、判断力、表現力等〕「C読むこと」エ 精査・解釈「登場人物の行動や会話を中心に具体的に想像すること。」に関する課題である。「心に残った場面をあげて、その理由を述べる」という課題に対する三つの答えについて、ABCの評価を行えというものである。

すみれちゃんはおこりそうだったけれど、やさしいおねえさんなので、おこらずにコスモスの絵をのこしてあげておいて、とてもやさしいお姉さんだと思いました。

ぼくが心にのこった場めんは、すみれちゃんが、「半分くらい、なきそうでした。もう半分は、おこりそうでした。」というところです。理由は、すみれちゃんが、なきそうな気もちとおこりた気もとをかりんちゃんのためにがまんしてあげて、やさしいなと思ったからです。

わたしは、すみれちゃんが絵をけさなかったところが一ばん心にのこりました。わたしだったらぐちゃぐちゃに絵をけしてしまうかもしれません。わたしもすみれちゃんのようなおねえちゃんになれたらいいなと思います。

評価は、2番目がAで、3番目がB、1番目がCということである。「読むこと」領域の指導事項の構成は「学習過程に沿って」(学習指導要領解説)「○構造と内容の把握 ○精査・解釈 ○考えの形成」という形で構成されている。なぜ3番目がBかと言うと、「「わたしだったら……」「わたしも……」という記述が「考えの形成」に及んでおり、精査・解釈の段階としては行き過ぎであるから」(菊池調査官)というものである。

確かに3番目の答えは、理由を「わたしの文脈」を導入して述べている。しかし、読みの学習における解釈の根拠は、テクストの文脈と状況の文脈の双方を導入して行われるはずのもので、その二つを小学校低学年の段階で峻別し、状況の文脈を導入した解釈は、「考えの形成」であるとするような判断が子どもに可能であろうか。また、今回の学習指導要領における学習過程の提示については、学習指導要領解説で、繰り返し「今回の改訂では,学習過程を一層明確にし,各指導事項を位置付けた。なお,ここに示す学習過程は指導の順序性を示すものではないため,(中略)指導事項を必ずしも順番に指導する必要はない。」とあるとおり、学習指導が順序に従うものではないことが示されている。それはまた、実際の学習においては、学習過程に示されたような内容が順序だてて生起するものではないということをも示していると考えられ、その方が自然である。むしろ文学作品の読みにおいては、構造と内容の把握と精査・解釈と考えの形成はある瞬間に一気に起こることなのではないか。「問い」は、どこに主として着目して読みを促すかという狙いは持つものの、「精査・解釈」の問いに対して、構造と内容の把握や考えの形成を含めて反応することを禁ずるものではない。

「一ばん心にのこ」った理由が、「わたしとはちがってすみれちゃんは偉いなあと思ったから」であって、何がいけないのだろう。子どもは全く納得できないだろう。「絵をけさなかったところって、すみれちゃんはどう考えてそうしたんだろう?」と問い返し、少し詳しい説明をさせればいいだけである。2番目の答えにも、「がまんできるとやさしいって思ったのはどうして?」と聞けば、状況の文脈が導入された「解釈」が示されるだろう。それが考えの形成に及ぶと、「精査・解釈」と答えとしては不適切だとでも言うのだろうか。少なくとも「解釈が十分に説明されていないから」Bだという説明をするのが穏当である。1番目の答えについても、場面を特定していないと見なすのは気の毒であろう。「どの場面かな?」と聞き返し、「どうしてやさしいって思うのかな?」と聞き返せばいいだけである。

むろん、ここで言う評価は、「形成的評価」のことで、答えをこのように把握し、次の手を打ちながら学習を進めるという前提があるのだと理解することもできる。しかし、教科調査官がこのような一種のカッティングポイントを示してしまうと、それが評定に結びつく評価の「やり方」であると考えられても不思議ではない。

評価規準の作り方

中村和弘(2020:8-9)は、「教科等担当指導主事連絡協議会 国立教育政策研究所説明資料(2019.6)を踏まえて、「知識・技能」「思考・判断・表現」の評価規準の作り方について、次のように説明している。

国語科の単元では、原則として〔知識及び技能〕に関する事項と〔思考力、判断力、表現力等〕に関する事項とが組み合わされて、単元の目標評価が設定される。例えば、低学年で「自分の宝物を紹介するスピーチをしよう」という単元において、

・姿勢や口形、発生や発音に注意して話すこと 〔知識及び技能〕(1)イ
・丁寧な言葉と普通の言葉との違いに気を付けて使うこと 同(1)キ
・伝えた事柄や相手に応じて、声の大きさや速さなどを工夫すること〔思考力、判断力、表現力等〕A話すこと・聞くことウ

という資質・能力を身に付けることを目標としたとする。
この単元の評価を考えるには、育成を目指す資質・能力が身についた状態を示すことが必要である。そうすると、評価規準としては、

・姿勢や口形、発生や発音に注意して話している。
・丁寧な言葉と普通の言葉との違いに気を付けて使っている。
・「話すこと・聞くこと」において、伝えた事柄や相手に応じて、声の大きさや速さなどを工夫している。

と示されることになる。

要するに、これは、学習指導要領の内容をから項目を選び、「……こと」という文末を「……ている」に書き換えれば評価規準が作成できるというもので、文科省・教育政策研究所のさまざまな資料でも同じ説明がなされている。菊池調査官は先の講演で、「これで働き方改革をしましょう」などどいう悪い冗談を言っていたが、「自分の宝物を紹介するスピーチをしよう」という単元で、指導目標と一体化している評価規準がこれで良いとは考えられない。

低学年の「話す・聞く」には、学習指導要領でも、他にも次のような指導内容がある。

ア 身近なことや経験したことなどから話題を決め,伝え合うために必要な事柄を選ぶこと。
イ 相手に伝わるように,行動したことや経験したことに基づいて,話す事柄の順序を考えること。

おそらく、実際の学習指導においては、「宝物って何だろう」という「定義」を考え、自分にとっての宝物をいったいどのようなものとして取り上げ、説明するかを考えるであろう。そこでは、「自分にとって宝物とはどういうようなもので、その考えの基に、自分の生活、来歴を見直してみたところ、自分なりの宝物として紹介すべきものはこうだと考えられる」という内容を、聞き手を引き込むための説明の順序や表現を考えて発表しようということになるはずである。そこでは、指導する教師が、その学習集団にふさわしい形で目標を考え、評価規準を作る必要がある。もっと自分自身を見直し、深く考える子どもを育てようとすれば、「心の中の宝物」に焦点化して、「一番の思い出」だったり、「大切に思う人」だったりを選んでその理由を述べようとするだろうし、物の価値を特徴に応じて説明させようとすれば、「お気に入りの物」を取り上げて、その価値を知らせる表現に気を配ることになるだろう。

評価規準を学習指導要領の内容からピックアップして文末を置き換えればよいものである、というような考え方は、国語科の学習の本質から最も遠いものであろう。知識・技能や、やせた思考・判断・表現の内容を評価規準としたのでは、学習の本質は見逃され、学習が形骸化するおそれがある。「本当に大切な思い出を想起できたか」「自分の思いを伝えようとしたか」というようなことこそが教室で大事にされ、評価されるべきである。

このような「評価規準の作り方」は文科省・教育政策研究所の出す資料では、共通しており、このような評価についての検討をした人々の中で共有されているようである。しかし、そのような小手先のテクニカルなものとして評価規準や評定、学習指導のデザインを考えて良いのかという素朴な疑問が生まれる。

石井英真(2019a:36-37)は、次のように述べている。

資質・能力ベースの新学習指導要領が目指すのは、「真正の学習(authentic learninng)」(学校外や将来の生活で遭遇する本物の、あるいは本物のエッセンスを保持した活動)を通じて「使える」レベルの知識とスキルと情意を一体的に育成していくことである。新指導要録の観点別評価では、「知識・技能」について、理解を伴って中心概念を習得することを重視して、「知っている・できる」レベルのみならず「わかる」レベルも含むようテスト問題を工夫することが、そして、「思考・判断・表現」については、「わかる」レベルの思考を問う問題に加え、全国学力・学習状況調査の「活用」問題のように、「使える」レベルの思考を意識した記述式問題を盛り込んでいくこと、また、「主体的に学習に取り組む態度」も併せて評価できるような、問いと答えの間の長い思考を試すテスト以外の課題を工夫することがもとめられるのである。

新しい学習指導要領に対応する新しい「資質・能力」を育む評価においては、多様な評価方法、評価の尺度を使いながら、「わかる」レベルや「使える」レベルでの力の定着を求めるものであり、石井(2019a:34)も述べているように、「本来観点別評価は、目指す学力の質の違いに合わせて多様な評価方法の使用を促す点に主眼があり、1単元や1学期といったスパンで考えるべき」ものであろう。中村の例示するスピーチの評価規準では、そもそも「わかる」「使える」レベルの評価はできない。しかも、授業や小さい単元を単位としてそうしたレベルでの「思考・判断・表現」の評価ができるかというと、それは難しい。スピーチのようなパフォーマンス課題を持つ単元であれば、そこではまさにパフォーマンス評価が導入されるべきであり、そこにおける評価規準は、これも石井(2019c:45)の言うように、「どんな観点を意識しながら、どんな方向を目指して学習するのかといった各教科の卓越性の規準を、教師と学習者の間で、あるいは学習者間で、教師が想定した規準事態の問い直しも視野に入れて、対話的に共有・共創していく」という構えで作られるべきもので、学習指導要領における各領域(国語については、「思考・判断・表現」の領域を指定するという意味で、観点別評価は5観点であるとされている)の中から指導内容を選んで文末を置き換えるというような「作業」で代替できるものではない。

「主体的に学習に取り組む態度」の評価

中村(2020:9-10)は、次のように述べている。

「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準については、次の四つの観点から構成するということになる。(〈 〉内は当該内容の学習上の例示) ①粘り強さ〈積極的に、進んで、粘り強く等〉 ②自らの学習の調整〈学習の見通しをもって、学習課題に沿って、今までの学習を生かして等〉 ③他の2観点において重点とする内容(特に、粘り強さを発揮してほしい内容) ④当該単元(や題材)の具体的な言語活動(自らの学習の調整が必要となる具体的な言語活動)  先の低学年での「自分の宝物を紹介するスピーチをしよう」の単元の場合は、①~④の要素に当てはめてみると、例えば、「①進んで」「②学習課題に沿って」「③丁寧な言葉と普通の言葉との違いに気を付けて使う」「④紹介する」とすることができる。

この①~④の文言を自然な分とするために、語順などを入れ替えると、この単元での「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準は、「進んで丁寧な言葉と普通の言葉との違いに気を付け、学習課題に沿って紹介しようとしている」ということになる。

このような手順を経て、「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準も設定することができる。

悪気はないのであろうが、ここでも教育政策研究所の資料を基に、「手順」という形で評価規準の作り方がテクニカルに説明されている。しかし、この悪気のないところが国語関係者がおかしている過ちを示すものであろう。冨山哲也(2020:15)も、評価規準の例として、「①粘り強く③表現を工夫し、②今までの学習を生かして、④意見を述べようとしている。」というものを提示している。

だが、「主体的に学習に取り組む態度」は、「思考・判断・表現」と合わせて評価するもので、もともと別の評価規準をたてて行うという趣旨ではなかったはずである。  奈須正裕(2019a:46)は、「「主体的に学習に取り組む態度」の評価の基本的考え方」として、次のようなことを述べている。

あらかじめの規準・基準に縛られることなく、むしろ「子供に学ぶ」ろいう姿勢で虚心坦懐にその子ならではのよい点や可能性、進歩の状況を見取り、価値付けると共に、そのような教師の見取りを子供に率直に伝え、双方向的なコミュニケーションを丁寧に積み重ねる中で、さらによりよい方向へと子供が成長を遂げていくよう粘り強く働きかけていきたい。

また、奈須正裕(2019b:50)では、「主体的に学習に取り組む態度」の含まれる「学習に関する自己調整力」について、次のように述べている。

まず、自分にとって学ぶ価値のある対象を見いだし、そこに適切な目標を設定し、着実にその実現へと至る計画を立案する必要がある。次に、粘り強い遂行へと自らを動機付けるとともに、活動の遂行状況を正確にモニターすることが欠かせない。また、問題が発生した場合にも、慌てることなく立ち止まってどうするべきか考え、学習の方法や問題解決の方略、時には目標をも柔軟に修正することになる。さらに、学習活動が終了した後も、当面の目標や計画に照らして振り返りを行い、特に予想と異なった部分や不十分な箇所については原因を探索し、次の学習活動では何をどうすればよいかを考えることが望まれる。

このような考え方と、先に見たような「評価規準の作り方や手順」との間には大きな齟齬がある。そもそも学習指導要領における「学びに向かう力・人間性等」は単なる態度(behavior:性格・行動)のことを言っているのではなく、調整・意思(attitude)のことを指しているものと考えるべきである。そこでは、メタ認知に基づく「自己調整」が求められる。奈須(2019b:50)も、「子供たちは個々の学習活動を遂行するのみならず、それらを目的的な一連の活動として自己調整(self-regulation)することが望まれる。」と述べている。「進んで丁寧な言葉と普通の言葉との違いに気を付け、学習課題に沿って紹介しようとしている」というような評価規準では、まさに態度(behavior)が焦点化されてしまうであろう。

樺山敏郎(2019:75)では、「粘り強い取組」「学習の調整力」について次のような説明がなされているが、奈須の言うような理念とはずれがあると言うべきであろう。

国語で表現された内容や事柄を「正確に」理解しようとする姿、国語を使って内容や事柄を「適切に」表現しようとする姿を捉え評価することである。探究心、向上心、積極性などが粘り強さの要素となる。

言葉そのもの、言葉を通じて理解した内容、あるいは表現した内容が妥当であるかなどを思考し判断する姿、協働して最善解や納得解に向かう姿、問い直し、問い続ける姿などを調整力の表れとして見取ることである。

ここで言う姿は、むしろbehaviorに近い。まして、冨山(2020:14)のように、「主体的に学習に取り組む態度」の評価を「基本的には、これまでの「国語への関心・意欲・態度」の評価と同様の趣旨と捉えてよい。」としてしまっては、学習指導要領改訂の意味そのものが問われかねない。

おわりに

新しい国語科の評価について、ここまでなされてきた理念的な解説と国語科における具体的な解説との齟齬を中心に、いくつかの観点に即して検討してきた。新学習指導要領の示すところが、あまりにも子どもの実態とかけ離れた遙か遠い星のような目標に見えるという問題がまずある。そして、その前で困り果てる現場に寄り添ってか、評価をめぐる国語科関係者の言説はあまりにテクニカルで、理念を一切無視するような印象さえある。このギャップを前にすると、現場の教師は、指示された作業を行えば行うほど、国語の授業はこういうものではなかったはずだという暗然たる思いにとらわれていくに違いない。評価規準は指導目標そのものと軌を一にする。子どもの学習の本質を捉えるような評価規準が設定されなければならない。それを一人ひとりの教師の責任として荷を負わされているというのが現状だと理解するしかない。

文献

  • 市川伸一編(2019)『即解 新指導要領と「資質・能力」を育む評価』ぎょうせい
    石井英真(2019a)「観点別学習状況の評価のポイント」34-37
    石井英真(2019b)「「知識・技能」の評価のポイント」38-41
    石井英真(2019c)「「思考・判断・表現」の評価のポイント」42-45
    奈須正裕(2019a)「「主体的に学習に取り組む態度」の評価の基本的考え方」46-49
    奈須正裕(2019b)「「学習に関する自己調整力」とは何か」50-51
    石井英真(2019d)「「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法」52-55
    樺山敏郎(2019)「目標を実現した子どもの姿を具体化する」74-75
    冨山哲也(2019)「言語活動を通して資質・能力を育成し評価する」104-105
  • 『教育科学国語教育』841号(2020.1)明治図書
    石井英真(2020)「提言 3観点の学習評価のポイント ほんものの学力を試す総括的で挑戦的な課題づくりを」4-7
    中村和弘(2020)「提言 3観点の学習評価のポイント 小学校 評価規準の作成と授業改善に向けて」8-11
    冨山哲也(2020)「提言 3観点の学習評価のポイント 中学校 国語科の資質・能力を確実に育成するための学習評価」12-15
  • 『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(小学校・中学校)』(2019.12) 国立教育政策研究所教育課程研究センター
  • 菊池英慈(2020.2.21)「新学習指導要領を踏まえた国語科における学習評価の改善」東京都小学校国語教育研究会研究大会(墨田区立両国小学校)スライド資料
  • 黒田諭(2020.2.15)「育成を目指す資質・能力を明確にした国語科の授業づくり」日本国語教育学会研究部主催第3回公開研究会スライド資料