坂野先生:ドイツの教育政策のABCVol.3:政党と教育政策

2011.12.19
坂野 慎二

「教育政策は、誰が決めるのか?」と日本で尋ねると、多くの人が「国」であるとか「文部科学省」と答えるのではないでしょうか。権限論でいえば、国レベルで決定する枠組みは国会による法律であり、法に基づいて教育行政を所管する文部科学省が方針を示すことになります。
ドイツでは16ある州が教育についての権限を有しています。しかも、州文部省が教育政策を決めるというよりは、州議会選挙によって、教育政策が定まっていきます。選挙において、各政党は公約を掲げます。例えば、保守系政党CDUは分岐型学校制度の維持を主張しますし、労働組合系政党SPDは、総合制学校(前期中等教育段階で共通の学校)を導入し、一緒に教育を受けることを重視するよう主張します。
州議会選挙の結果、1党で過半数を獲得して与党となれば、その選挙公約がそのまま政策となります。しかし多くの場合は複数の政党による連立政権となります。そうなると、連立する政党間で協議が行われ、協定書が作成されます。この協定書の作成には一ヶ月、場合によっては数ヶ月に及ぶこともあります。4年から5年の間の教育政策もそこで決定されることになります。実際に、政権交替が起こることによって、教育政策も変化します。
頻繁に政権交替が起こると、教育政策も4年あるいは5年経つと元に戻ってしまうことがあります。それまで進められていた教育政策が突然に打ち切りになり、それまでに費やした費用が無駄になると考えることもできます。
ドイツの人達は、こうした変化をある種当然として受け取っているようです。イギリスでは1970年代に頻繁に政権交替があり、総合制学校の導入を巡って、行きつ戻りつしました。森嶋通夫氏は『イギリスと日本』(岩波新書)の中で、これを「民主主義のコスト」と論じています。ドイツ人も同じような考え方といえそうです。
日本では政権交替があまり頻繁ではなく、与党となる政党が替わることによる政策の変更があまりありませんでした。しかし2009年の衆議院選挙によって、自民党連立内閣から民主党を中心とした連立内閣へと政権交替がありました。その結果、教育政策においても、変化が起こりました。例えば、公立高校の授業料無償化が2010年度から実施されたことは、記憶に新しいところです。ドイツやイギリスの例でみたように、政権交替で政策が変化することは、むしろ自然なことなのです。