田原先生:教育相談のABCVol.1:PTSDという言葉、よく耳にしますよね!

2012.04.09
田原 俊司

Posttraumatic Stress Disorder(心的外傷後ストレス障害)の略語です。地震や津波等の自然災害、事故、暴力、虐待、性犯罪、「いじめ」などの被害を受けたり、それらの場面を目撃したりしたとき、通常、人は強い恐怖心や無力感をいだくとともに、大きな精神的ショックを受けます。このように本人にとって「通常では対処しきれないような大きなストレス・ショックを受けたときにできる精神的な傷」のことをトラウマ(心的外傷体験)といいます。トラウマを経験しますと、ほとんどの人には急性ストレス反応が起こります。急性ストレス反応としては、以下の3つの典型的症状があげられます。

(1)できごとの再体験 :思い出したくないにも関わらず、同じ場面、同じ不安が現実に起こっているかのような生々しい感覚を伴って何度もよみがえります。

(2)回避・麻痺:体験した「できごと」と関係する話題や場所、人を避けようとすることがあります。また、現実感・物事への興味が失われ、感情や行動を制御できなくなることもあります。

(3)感情・緊張感が高まる:リラックスできず、常に緊張した状態となります。怖い夢を見る、眠れない、イライラする、落ち着かない、物事に集中できない、極端に警戒心が強くなる、ささいなことで驚く、物覚えが悪くなるなどの症状が出現します。

これらのストレス反応は「異常な事態における正常反応」ですので、発生するのが「普通」です。励ましたり、叱責したり、説教をしたりしてしまいがちになりますが、さらに症状を悪化させてしまいかねません。喜怒哀楽を率直に表現させ、感情を受け止めることが大切です。一般的には、急性ストレス反応は数週間から数ヶ月すると、次第に消失していきます。ただし、時間が経過しても症状に改善が見られず、日常生活や学業に支障が出てくるようですとPTSDと診断されることになります。

PTSDの諸症状が数ヶ月続きますと、自然治癒による回復が見込めなくなってしまうことが多々あります。主な理由は、トラウマが過去のものとして処理されず、いつまでも生々しい現実として体験され続けてしまうためです。このような場合、証拠に基づく厳密な検証を経て効果が認められている治療法としては、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を中心とした抗うつ薬による薬物療法、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)、トラウマに焦点化した認知行動療法などがあります。これらの方法をご検討ください。