田原先生:教育相談のABCVol.4:「自分の容姿が醜い」と言い続ける子どもはいませんか?

2012.05.01
田原 俊司

周囲の人からは欠点と思えないにもかかわらず、「目が細すぎる」「鼻が低すぎる」「自分のプロポーションが悪い」といったように、自分の顔や体形を「醜い」と考えている子どもがいます。いくら容姿に問題がないと説得しても受け入れず、かたくなに拒否するようであれ身体醜形障害かもしれません。本人は、自分の醜さが周囲の人たちに不快感を与え、軽蔑されているに違いないと思い込んでいます。醜いと訴える部分は目や鼻などの顔、髪の毛、皮膚などが多いのですが、ケースによっては手足や性器、体重、身長など身体のあらゆる部位におよびます。かつて身体醜形障害は「醜形恐怖症」「醜貌恐怖症」と言われていました。これは、恐怖の対象が顔であることが多かったためですが、近年、顔だけにとどまらず身体全体であることが明らかとなり、身体醜形障害といわれるようになりました。
身体醜形障害になりますと、本人は自信を失い、他人の視線を気にするようになります。偶然、他者が向けた視線に対しましても、本人は自分が醜いために「人がジロジロと自分を見ている」という不安感にかられてしまいます。そのため、帽子やマスク、手袋、コート、ヘアーピースなどで自分の気になっている部分を隠すようになってしまうことも珍しくありません。症状が進行していきますと、人目を避け、人に見られる可能性の少ない夜だけ外出したり、家に引きこもったりするなど孤立傾向を強め、不登校や退学、さらには自殺へと至ってしまうこともあります。
身体醜形障害の子どもの場合、1人で悶々と悩んでいることがほとんどです。もし、本人から相談をうけることがありましたら、たとえ本人の言葉からは深刻さがうかがわれないようでも、悩みは甚大です。相談の中では「美容整形や形成外科で手術を受けたい」と言い出すことが多くあります。しかし、たとえ手術をしましても、本人はその結果に納得せず、その後も手術を受けたいと言い続けるケースがほとんどです。背景にはコンプレックスから派生した自己評価や自己肯定感の低さがあります。「容姿に問題はなく、手術の必要はない」と説得しましても、本人は納得しません。説得をし過ぎますと、相談に訪れなくなってしまうことにもなりかねません。身体醜形障害の子どもには、まず訴えを否定するのではなく、心の痛みを受けとめて、傾聴を心がけてください。子どもとの間で信頼関係が構築されたと感じられましたら、子どもの自己肯定感や自尊感情を高める工夫が必要となります。この段階では、傾聴しつつも、子どもの良い点を指摘したり、子どもにあえて別の考え方をさせたりしてみる認知行動療法が有益になることがあります。対応が困難であると感じられましたら、医療機関や相談機関をご検討ください。薬物療法や心理療法が必要となってきます。身体醜形障害の場合、2%程度がうつを併発したり、統合失調症であったりすることもあります。