井出先生:ことばの教育のABCVol.3:ことばから考える子どもの理解

2012.05.21
井出 一雄

私たちは、人の内面(思い・考え・主張など)にあるものをどのように理解するのでしょうか。その人の表情・しぐさ・言動から想像したり類推したりしますが、確かに理解する手段としてことばがあります。教師にとっても、子どもを理解する手段の一つとして、ことばは重要な役割を果たします。逆に、子どもはことばを手がかりに自己の思いや考えなどを相手に伝えます。そこで、ことばを媒介とした子どもの内なる心の表現に着目し、今回は述べていきます。また、ここでは、ことばと表現との関係が二通りあることを押さえておきます。一つは、ことばを発しないで表現(非言語表現活動)ことです。二つは、音声や文字による表現です。

ことばに見る子どもの揺れ動く心

日常的に一人ひとりの子どもを理解するときや、課題のある子どもの真意や内面を理解するときに、次のような子どもたちに出会います。何を言われても黙っている子、すぐに泣いてします子、ばつが悪そうに笑っている子、何も語らず思いを器物にぶつける子などです。この子どもたちは非言語による表現活動で、表面的な行動から真意を読み取ることは難しいといえます。一方、話をするのですが自己中心的な子、他人に責任を負わせる子、肝心なところになると真意を語らない子などは、直接発していることばから話の核心を把握していくことは難しいといえます。
子ども一人ひとりに個性があり表現手段が違うのです。何らかの要因でことばによる自己表現が的確にできないことが多いからです。ですから、特効薬はなくマニュアルもありません。地道な取り組みの中から解決策が見えてくるのです。そのために、子ども一人ひとりに即した情報を収集したり観察したりして対応策を考えることが求められます。つまり、教師は日頃の子どもたちの言動を見極め、その言動における特徴(子どもの内面を表すサイン)を捉え蓄積しておくのです。いわゆる暗黙知も含めて、子どもの揺れ動く心を理解し段階を踏んだ対応策を考えることなのです。

ことばによる自己表現ができる子を育む

子どもは学習している中で、さまざまな知識や情報、あらゆる事象やものごとの見方や考えを学びます。その際に、学習内容と自分の考えや思いと比べたり照らし合わせたりする学習の場を設定するのです。つまり、学んだことを「自分だったら・・・する。」「自分は・・・と考える。」など、自分の立場や自分のことばに置き換えて考えさせる学習活動を取り入れるのです。また、自ら学習した内容を書き表すための多様な表現方法を学ぶ場も設定するのです。この表現方法には、(1)表現の仕方の学び (2)どのように表現するのか の二通りあります。表現の仕方には、視写・聴写・箇条書き・要約・図表やグラフ化・記号や符号など多様です。これらは、一つ一つ丁寧に取り上げて繰り返し螺旋的に指導していくことが求められます。二つ目の「どのように表現するのか」は、説明、新聞、日記、手紙などがあり、言語活動として取り上げられているものです。
このように、自分に適したまとめ方とは何かを考えさせ習得させる過程を通して自己表現できる子どもが育まれるのです。