石井先生Vol.1:「ロウソクの科学」ファラデー

2015.11.20

東日本大震災では、「停電」や「節電」が身近となり、エネルギーについて考える機会となりました。非常用にろうそくを買い揃えた家庭も多いようです。それでも今,家でろうそくを見かける機会は、仏壇に線香をあげたり、クリスマスや誕生日のケーキにつけたりする程度でしょうか。

図書館などで、絵本などを使わずに、素話でストーリーが語られる「お話のろうそく」というお話会があります。穏やかな語りとろうそくのあかりに集中するうちに、どの子も静かに落ち着いて座り、お話の世界に浸っていきます。ろうそくのあかりの不規則な揺らぎは、気持ちを落ち着かせるとも言われ、アロマセラピーなどにも使われています。

ろうそく、と言えば、『ロウソクの科学』(原題『The Chemical History of a Candle』)という名著があります。イギリスの科学者マイケル・ファラデー(1791~1867)が1861年のクリスマス休暇にロンドンの王立研究所で行った市民向けの講演をそのまま書物にしたものです。お話と実験で構成されていた6回分の講演がその語りのまま書かれており、1つのろうそくから、燃えるしくみ、炭素や酸素、水蒸気など、様々な科学の世界に誘われます。そして、炎を出しているろうそくをじっくり観察してみると、上部がお椀のようにへこみ、ひたひたと液体がたまって、今でも全く同じ現象が見られます。

200年近くも前、周期表もまだ完成していない時代に、大科学者のファラデーは、自分たち科学者自身が議論中である事も含め、先端の科学を普通の人々(市民)にわかりやすく伝えようと努力したのでした。ファラデーのクリスマスレクチャーは、科学が社会(市民)と分断されないための大きな一歩でした。ファラデーは、すべての人が理科を学ぶ意味を、論理的な思考の方法を身につけることと考えていたそうです。科学を科学者だけのものとせず、広く市民に開くことは、科学の発展が世界に恐怖や害をもたらすようなことにならぬために、今でも大切なことですね。