夏期集中講義「脳科学と教育」第5日目

2011.08.22

「脳科学と教育」も最終日を迎えました。
ところで、みなさんは、「薔薇」という漢字が書けますか? ヒトは電気で動いているって知っていましたか? イチローって、どうしてあんなにヒットが打てるのでしょう?
この日は、「体の不思議」を脳科学の立場から学んだ日でした。
午前中は工学部の星英司教授。午後からは、相原威教授の講義を受講しました。

星先生は随意運動の発達過程を支える脳機能について、解剖学的手法と生理学的手法を組み合わせて研究を行われています。特に前頭葉に存在する複数の領域と関連した脳領域が果たす特異的な役割、これらの間の機能関連を解明することを目指していらっしゃいます。
講義のタイトルは、「前頭葉と随意運動」。イチローのヒットはどこで打つ? シャラポワは、なぜあのようなリターンを打てるのか? 脳科学の分野で解説していただきました。動物の中でも、ヒトの前頭葉が最も発達しています。前頭葉は、大脳皮質の一部分で、脳の前方部にあります。
その中でも、1次運動野、前頭前野、高次運動野があります。
1次運動野には体部位再現といって、体の部分を制御する場所が分かれています。よく足ツボマッサージでも、押す部位によって、体の部位に効果があるということに似ているように感じました。1次運動野から脊髄に出力され、運動神経に伝えられ、筋肉を動かします。動作の最終的な実行部位になります。運動は、ほとんど1次運動野で制御されていますが、例外もあります。脚気かどうか、膝で反応を見ますが、脳が反応しているわけではなく、脊髄反射といって、叩かれて縮んだ筋肉を伸ばすという反応を脊髄で行っているのだそうです。

ペットボトルを手に乗せて、他の人がペットボトルをとると、自然に手が上がります。この時、使われているのが1次運動野です。無意識に働いているのがわかります。1次運動野から脊髄に出力されるわけですが、交通事故で下半身不随になってしまうのは、脊髄が切れてしまうからだという話でした。脊髄は分節に分かれていて、それぞれの皮膚分節と支配筋を制御しています。切れた下の方には情報がいかないために、上の方で切れるほど、動かない部分が増えてしまうわけです。
次に高次運動野についてです。高次運動野は、動作をプログラムする部位です。補足運動野があたります。サルを使ったさまざまな実験から、動作の順序制御、動作の更新、動作の随意的表現に関与していることがわかりました。補足運動野の機能としては、内的情報に基づく随意的な動作発現、精緻な動作、連続動作、左右両手の協調動作、同時進行動作、姿勢制御に関わります。ペットボトルを手で受け取ろうとするのと、ペンを受け取ろうとするのとでは、手の形が違うというのは、補足運動野が機能しているのです。
前頭前野は、知・情・意の中心。高次運動野は、動作をプログラム、一次運動野は、動作の実行部位である、とまとめられます。

相原先生は、記憶・学習に関わる脳内システムの研究をしていらっしゃいます。特に海馬神経回路網の時空間情報処理メカニズムに関して、分子レベルからネットワークレベルまでの解明に向けて、実験「オプティカルイメージングメソッド)及びモデルシミュレーションによる研究を行っています。
講義のタイトルは「脳の情報処理リテラシー」です。まず、見たのは、「スパイダーマン2」のワンシーン。人間の体がどのような仕組みで動いているかをオクタビウス博士の金属アーム(タコのようなアームです。)を体にたとえて教えていただきました。自分の脳から腕に送られる100mVの電気信号を電極で受け取り、ロボットアームを動かしているのですが、人間の体も同じです。人間の心は脳にありますが、心が働き、体を動かす時に、電気が脳の中を駆け回るわけです。

次の絵を見てください。ここに出ているおじさんは、どんな気持ちでしょうか? 無人島にいるわけですから、こんな大きな魚を見つけてうれしいはずですね。この絵を逆さに見てください。違うものが見えてきますね。これは、無人島、ボート、魚、といったキーワードが、自分の記憶をもとに構成されるパターン認識です。違う角度から見ると、全く違う絵になりますが、そこで、もう一度、脳でパターン認識されるわけです。

次の絵はもう少しわかりやすい例です。この絵から何が見えますか? 真ん中に大きな顔のようなものが見える人と、人が二人立っているように見える人とがいると思います。これは、目が、どこに焦点化されているかによって違います。同じ人でも、その時の状態によって見え方が違うのだとわかりました。これも、パターン認識です。 他にも、人間の集中力の続く時間、賢くなるための音楽、簡単記憶術、歴史の記憶法、英単語の記憶法、頭の良くなる食べ物、勉強するときに眠気を払う方法、勉強はいつした方がいいか、金縛りはなぜあうのか、夢はどうして見るのか、など、本屋に行くと、手にしたくなるようなテーマについて教えていただきました。ちなみに「薔薇」という漢字は、分かりにくいところだけを中心にしてそこだけ覚えればいいのです。「薔」では、土に人人です。「薇」ですと、くさかんむりの下の、山、一、ル(に似た字)です。人間は自分の頭の中にあることと関連付けて覚えているのです。そう考えると、何かを覚えたい時は、何かに関連づければいいわけです。校歌の歌詞を言ってと言われた時に、実際に歌ってみるというのがわかりやすいでしょう。この講義ではたくさんの質問が出ましたが、相原先生は丁寧に答えてくださいました。
玉川大学といえば脳科学。そういったこともあり、わくわくして受講した今回の講義。期待以上の内容で、充実した五日間でした。脳科学は、まだまだわからないことがたくさんあるそうです。だからこそ、研究の楽しさがあるのだと思いました。我々教育者は、得た知識を有効活用する義務があります。今の時点でわかっている脳科学の知識を教え、脳科学への関心と興味を広げてくださった先生方、本当にありがとうございました。実に楽しい5日間でした。

(現職院生・T.G.)