安藤先生提言「インクルーシブ教育が目指すもの」

2019.09.27

1.インクルーシブ教育より、インクルーシブ社会が先

学校の中だけでインクルーシブ教育と声だかに叫んでいても意味がない、ということは言うまでもないことである。ICFで示す、環境との相互作用で障害状況が流動的に変化する、という社会モデルの意味が理解され、多様性が当然という「助けたり、助けられたりする社会」であってこそのインクルーシブ教育である。しかし、EUやアメリカの情勢変化によって、多様性を認め、助け、寛容な社会の持続性に陰りが見えてきている。

平成19年度から特別支援教育になっての10年で、特別支援学級在籍児童・生徒数は増加を続け、障害の多様化が進んでいる。例えば、知的障害学級2クラス、自閉症・情緒障害学級2クラス、肢体不自由学級1クラス、弱視学級1クラスの計6クラス、32名が在籍して、通級指導教室もあるといった学校が都市部でも地方でも増えている。

これは、一校で各障害に応じた支援を提供できる、インクルーシブな状態になったと言えるが、一方、LDやADHD等の児童が通常の学級から特別支援学級に移り、ある意味区別化が進んだとも言える。「本当にインクルーシブ教育を目指してきたのか?」「個別対応」や「より専門的対応」の名のもと、通常の学級から特別支援学級への転籍が増え、通常の学級の等質化が進んだようにも思われる。どうやら、そんなに単純ではなさそうである。確かに転籍も増えたが、それ以上に通常の学級の多様化が加速度的に進んでいるのではないだろうか。だからこそ、可能な限りの通常の教育と特別支援教育の一体化が必要なのではないだろうか。

2.本当の意味で多様性に対応できる学校への構造改革 (通常の教育と特別支援教育の教育課程の一体改革とTT配置)

(1)学習指導要領はコンテンツからコンピテンシーへ

表1は通常の教育と特別支援教育の教育課程の一体化を可能とするカリキュラムの構造化の基本的考え方を示している。

  • 基礎学習
    例えば、算数の授業では、45人のクラスに2人の教員が配置され、ひとり一人の子どもはタブレットやプリントを活用し個々の進度に応じて学習が進められている。隣の教室の算数は、5名で1人の教員が一斉指導をしている。もう一つの教室では、30名の児童に2人の教員がTTで一斉指導をしている。もちろん、国語、社会、理科のそれぞれで、異なる学習集団で学習が進められている。
  • 伸展学習
    教科の特性に応じて、子どもたちの興味・関心・得意を広げ、伸ばしていくことになる。多人数の学習集団をTTの活用で展開する。
  • 活用学習
    合科・統合により、課題解決を主とした単元を設定し、異年齢の小集団で学習を進める。休み時間、給食の時間、掃除の時間等にも学習場面を個の教育ニーズに応じて設定する。課題の例は、「地域の防災マップをつくる」「商店街活性化プロジェクト」「地域貢献活動」などが考えられる。これらの学習は能力育成がねらいで、リーダーシップ力、コミュニケーション力、グループによる課題解決力等を育てる。また、SSTの場ともなる。

個々に応じた基礎学習と活用能力の習得が重要になってくる。個々に応じた基礎学習は、自宅や基礎学習クラスでPCやタブレットを使って、個人の進度で学ぶことが効果的である。活用能力については、多様な集団と場を活用し、問題解決に取り組ませる。基礎学習の場と活用能力を養う場を明確に分けることが必要である。教師は常に指導をするのではなく、活用の場では観察と評価を主とし、何が足りないのか、何に躓いているのか、メタ認知能力は育っているのかを把握するのである。

(2)自分の学び方の発見と自己理解の促進

  • 個々に応じた基礎学習を通して、自分の認知特性に合った自分の学び方の発見をすることになる。教師はひとり一人の認知特性をアセスメント(同時処理、継次処理、プランニング、注意、ワーキングメモリー等)し、効果的な学び方に気づくように助言をする。全員が同じように漢字を100回書いて覚えるようなことは望ましくない。また、自分の思考の特性も知ることになる。演繹的に考えるのか、帰納的に考えるのか、思考マップを効果的に活用できるのか等の自分の効果的な学び方、友達の学び方を知る。
  • 学び方だけではない、自分のコミュニケ-ションや社会性の特性を知り、人とのつきあい方、グループワークへの参加の仕方等を学ぶ必要がある。この自己理解が他者理解につながり、「助け上手、助けられ上手」になる。自分は何が得意で、何が苦手なのか、難しいことはどうやって解決するのか、どのように人に助けを求め、どのように共存していくのか。自己を知り、年齢相応の解決方法を徐々に身につける。

(表1)「通常の教育と特別支援教育の教育課程の一体化を可能とするカリキュラムの構造化」

「インクルーシブ教育が目指すもの」(「新教育課程ライブラリⅡ<Vol.7>」ぎょうせい)から引用

  基礎学習伸展学習活用学習
教科 国語
算数
社会
理科
生活
英語
プログラミング教育
音楽
図工
体育
家庭
総合的な学習の時間
道徳
特別活動
(社会・理科)
異学年 学年 学年 低・中・高 低・高
学習集団 ○少人数~多人数
○一部進度別
○少人数~多人数
○興味・関心・得意
○異年齢の小集団
○課題解決/単元学習
「地域の防災マップ」
「商店街活性化プロジェクト」
「地域貢献活動」
ねらい ○認知スタイル
○ひとり一人の学び方
○言語活動
○得意な表出(表現)手段 ○能力育成
(リーダーシップ、コミュニケーション、プロジェクト法、課題解決、グループワーク等)

○教員の複数(TT)配置を基本とする