【量子情報科学研究所】Y-00光通信量子暗号を用いた通信距離1,000kmの暗号通信に成功

2019.05.09

玉川大学量子情報科学研究所は、Y-00光通信量子暗号(以下、Y-00暗号)の通信実験を行い、1,000kmの光ファイバ暗号通信に成功した。今回の実験は、本学で開発したY-00暗号トランシーバの通信性能試験で、Y-00暗号の実利用に向け開発が大きく前進した。
本成果の詳細は、2019年5月5日(日)から10日(金)まで米国カリフォルニア州サンノゼで開催されている国際会議「CLEO 2019 (Conference on Lasers and Electro-Optics 2019)」で発表した。

背景

近年、ネットの利便性が高まり、日常的に様々なサービスが利用されている。一方でサイバー攻撃などの脅威が増大し、オンライン取引、電子商取引、オンライン決済なども含め、ネット全体に高水準のセキュリティレベルが要求されている。特に、大容量の情報の通信を担う光通信回線へのサイバー攻撃対策は、強く求められている。本学では、光通信回線の安全性を高めるセキュア通信方式を実現することを目的として、Y-00暗号の研究に理論と実験の両側面から取り組んできている。Y-00暗号の特徴のひとつに、従来の光通信システムと親和性が高いことが挙げられる。これにより新規のインフラを作り上げることなく、既存の光通信インフラの中で利用することが可能となっている。実験研究では、100ギガビット毎秒の大容量通信実験や本学敷設光ファイバ回線で通信実験を行ってきている。また、ポータブルなY-00暗号トランシーバ(送受信機)を開発し、安全性や通信特性の評価実験を通して、実利用に向けた研究開発を推進している。これまで、トランシーバを用いた通信特性評価実験では、主にネットワーク応用や多重通信方式などへの応用を実証してきており、長距離通信特性の評価は実施していなかった。

今回の成果

本学で開発したY-00暗号トランシーバを用いて、Y-00暗号の長距離通信実験を実施した。光を直接中継する光増幅器を用いて光ファイバ伝送路を構築し、全長1,000km(およそ東京-北九州間と同距離)の光ファイバ通信回線で変調速度1.5ギガビット毎秒の暗号通信実験に成功した。

実験検証内容

今回の実験に使用した全長1,000kmの光ファイバ通信回線の構成を図1に示す。送信端と受信端の両方にY-00暗号トランシーバを設置した。写真はトランシーバの外観で、コンパクト(幅約43cm、高さ約4cm)な仕様で一般的な通信機器の規格に納まっている。なお、トランシーバはメディアコンバータのようにギガビットイーサネット(GbE)とY-00暗号を相互変換する機能を備えている。Y-00暗号は「盗聴者に暗号を傍受させない」ことを特徴とする光通信向けの暗号で、超多値変調信号を用い雑音マスク効果を利用する。今回の実験では4096値の変調信号(変調速度:1.5 ギガビット毎秒)を用いた。図2(a)に送信端から出力されるY-00暗号信号の波形を示す。4096値の強度変調信号はあたかも雑音のように見える。これは、盗聴者が観測する波形で、雑音のように見えることが望ましい。1,000kmの伝送路は、長さ40kmの光ファイバ伝送路の後に信号光を光増幅器で増幅中継する構成で、合計25個の光ファイバ伝送路と光増幅器を用いた。1,000km伝送後の波形を図2(b)に示す。盗聴者には(a)と同様に雑音のように見えるが、正規受信者は情報を復号するための暗号鍵を所有しているので、元の情報に戻すことができる。実験では符号誤り率を測定し、エラーなく暗号通信ができていることを検証した。

図1 Y-00暗号トランシーバの写真と1,000km通信実験の構成
図2 Y-00暗号信号の波形。(a)伝送前、(b)1,000km伝送後

学会発表

国際会議「CLEO 2019 (Conference on Lasers and Electro-Optics 2019)」
F. Futami, K. Tanizawa, K. Kato and O. Hirota, “1,000-km transmission of 1.5-Gb/s Y-00 quantum stream cipher using 4096-level intensity modulation signals.”