高速量子乱数発生器プロトタイプをCEATEC 2026で動態展示
真に予測不可能な量子乱数を毎秒50ギガビットで生成
次世代情報通信インフラを支える量子技術の社会実装に向けて
玉川大学量子情報科学研究所は、2026年10月13日から16日に開催されるCEATEC 2026(ブース番号4H201-203)において、光通信分野最大の国際会議であるOptical Fiber Communication Conference and Exhibition(OFC 2026)で発表した毎秒50ギガビットの高速の量子乱数発生器(1)のプロトタイプを動態展示します。
量子乱数発生器は、量子力学に由来する本質的なランダム性を利用して、真に予測不可能な乱数(2)を生成する技術です。生成された乱数は、暗号鍵生成や認証システムをはじめ、データセンター、クラウドサービス、AI計算基盤など幅広い分野への応用が期待されています。
今回展示するプロトタイプは、谷澤健教授らが国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)ステージI(育成フェーズ)の課題として研究開発を進めてきた成果であり、レーザ光の量子雑音(3)に由来する真空場揺らぎ(4)を利用し、毎秒50ギガビットの高速な量子乱数生成を実現したものです。CEATECでは、リアルタイムで乱数が生成される様子を公開し、研究室レベルの成果から社会実装を見据えた技術への発展を紹介します。
展示のポイント
CEATEC 2026で展示する量子乱数発生器プロトタイプは、19インチラックに搭載可能な2Uサイズの筐体に量子乱数生成機能を実装したものです。専門的な光学調整を必要としないターンキー方式を採用しており、簡便に長時間安定して動作します。本装置は、量子力学に起因する真空場揺らぎを利用して毎秒50ギガビットの乱数を生成し、その乱数を2系統の25ギガビットイーサネット(25GbE)インタフェースからリアルタイムにデジタル出力します。高速通信機器やデータセンター設備との接続を想定した構成となっており、実利用を見据えたプロトタイプとして開発されました。
展示ブースでは、来場者の操作に応じて乱数をリアルタイムに取得し、その場で乱数列を可視化します。また、取得した乱数に対して乱数検定NIST SP800-90B(5)をオンデマンドで実行し、出力した乱数の品質を確認できるデモンストレーションを行います。これにより、量子現象から生成された乱数が高速かつ安定的に出力される様子を実際に体験することができます。
研究の背景
近年、量子コンピュータや量子通信に代表される量子技術への関心が世界的に高まっています。その中でも量子乱数発生器は、ネットワークやクラウド基盤における情報セキュリティを支える重要な基盤技術として注目されています。一般的なコンピュータで生成される乱数はアルゴリズムに基づく擬似乱数であり、理論上は再現や予測が可能です。一方、量子乱数発生器は、量子力学の不確定性に基づいて本質的に予測不可能な乱数を生成します。高度なセキュリティが求められる用途への利用が期待されています。玉川大学量子情報科学研究所では、量子情報・通信技術の研究開発を推進しており、その一環として高速な量子乱数発生技術の研究に取り組んできました。
量子乱数発生器プロトタイプ
本プロトタイプは、レーザ光の量子雑音に由来する真空場揺らぎを測定して乱数の源として利用します。レーザ光の量子雑音は、ビームスプリッタ(6)等の光学素子でパワー分岐しても独立であるという量子的な特徴を利用して、1つのレーザ光源出力を集積型光スプリッタ(7)により多分岐して複数の測定系を並列動作させる空間多重技術の導入により、高速かつ高品質な量子乱数生成を実現しています。高速デジタル信号処理回路を用いてリアルタイムに並列で乱数を抽出することで、4並列合計で毎秒50ギガビットの量子乱数生成を実現しています。一般的なサーバラックへ搭載可能な2Uサイズに実装するとともに、専門的な調整を必要としないターンキー動作に対応しており、長時間安定的に予測不可能な乱数を生成できる実用機プロトタイプとして開発されました。(図1参照)
図1 毎秒50ギガビット量子乱数発生器の(a)内部構成と(b)写真今後の展望
量子乱数発生器は、暗号鍵生成や認証システムに加え、量子暗号通信、データセンター、AI向け計算基盤、科学技術計算など様々な分野への応用が期待されています。今回のプロトタイプでは、毎秒50ギガビット級の高速量子乱数生成に加え、2Uサイズへの小型実装およびターンキー動作を実現しました。これにより、研究用途にとどまらず、データセンター、通信インフラなどへの実装可能性を示しました。今後はさらなる小型化と信頼性向上を見据えた技術開発を進め、量子乱数技術の社会実装を目指してまいります。
本研究について
本成果は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)ステージI(育成フェーズ)課題「光電融合実装による超高速量子乱数発生装置の開発」(JPMJTR24RA)の支援を受けて実施したものです。
用語・注釈
- 量子乱数発生器
量子力学によりランダム性が担保された物理現象を用いて、乱数を生成する装置。近年注目を集めている量子技術の応用の一つである。 - 乱数
ランダムな数の列。2進表現の場合においては、ランダムな0と1の繰り返しの数列。 - 量子雑音
光が本質的にもつ雑音。真にランダムに振る舞う。光信号伝送や光センシングなどにおいて、性能限界を決める。 - 真空場揺らぎ
真空であってもエネルギーがランダムに揺らぐ性質。量子揺らぎとも呼ばれる。 - NIST SP800-90B
米国国立標準技術研究所(NIST)が定めた乱数エントロピー源の検定であり、乱数発生器の評価に標準的に用いられている。以下に詳細が記述されている:M. S. Turan, E. Barker, J. Kelsey, K. McKay, M. Baish, M. Boyle, “Recommendation for the Entropy Sources Used for Random Bit Generation,” NIST Special Publication 800-90B, 2018. - ビームスプリッタ
入射した光を、所定の分岐比で二つの光に分岐する光学素子。 - 集積型光スプリッタ
石英ガラス、シリコン、ポリマーなどの光導波路技術を用いて光を分岐するデバイス。コンパクトなサイズで光を多分岐することができる。石英ガラスを用いた集積型光スプリッタは、ファイバー・トゥ・ザ・ホームを実現するための基本部品として使用されている。