玉川大学脳科学トレーニングコース2019が開催されました

2019.11.06

2019年6月27日(木)から6月29日(土)の3日間にわたり、脳科学研究所において、「玉川大学脳科学トレーニングコース2019」が開催されました。このトレーニングコースは、脳科学の発展と普及を目的として、脳科学を志す学部学生、大学院生、若手ポスドクを対象に、学際的な研究手法の基礎と応用を実習で学んでもらうことを目的としています。

第9回目となる今回のトレーニングコースでは、4つの実習コースに全国から計77名の応募があり、書類選考で選ばれた21名の方が受講されました。

実習コース

1.霊長類の神経解剖と計測・イメージング・計算論コース(受講6名)

担当:鮫島和行、坂上雅道、小松英彦

2.ヒトのfMRI基礎実習コース(受講6名)

担当:松田哲也、松元健二

3.乳幼児の脳波計測の基礎コース(受講5名)

担当:佐治量哉

4.社会科学実験入門コース(受講4名)

担当:高岸治人

共通カリキュラム

開会式・懇親会(1日目)

 

Jam Session ~分野を越えて思考の調和を奏でよう~(2日目)

担当:酒井裕

 

ランチ交流会(3日目)

閉会式(3日目)

 

受講者の皆さん、3日間の実習お疲れさまでした。今回の脳科学トレーニングコースにより、一人でも多くの受講者が将来の脳科学の担い手となって活躍してくれることを心から期待しています。

  • 主催玉川大学脳科学研究所
  • 共催玉川大学大学院脳科学研究科
    玉川大学大学院工学研究科
    玉川大学学術研究所ミツバチ科学研究センター
  • 協賛尾崎理化株式会社
    小原医科産業株式会社
    株式会社フィジオテック
    バイオリサーチセンター株式会社
    マスワークス合同会社
    室町機械株式会社

受講者の声

霊長類の神経解剖と計測・イメージング・計算論コース

私は強化学習課題を用いて、統合失調症陰性症状傾向と探索行動回避の関係について研究を行なっています。玉川大学トレーニングコースを受講した理由は計算論のモデルベース解析の理解を深め、さらに霊長類動物の行動・神経計測・操作に関する実験の現場を実際に目の当たりしたかったからです。

1日目は、開会式の後、小松先生の視覚認知のメカニズムに関する講義を拝聴しました。その後は、マカクザルとネコの頭蓋観察、脳全体観察、マカクザルの脳のスケッチを行うことにより、脳の大きさや脳溝の数などにより脳の構造と機能が密接に関連していることが実際に観察できました。最後に、鮫島先生の指導のもと、マカクザルの飼育現場や行動実験の現場を見学しました。

2日目は、午前中に鮫島先生から霊長類研究とモデルベース解析についての講義を受けました。自分で2腕バンディット課題を行い、データ解析を行うことで自分の意思決定の傾向を推定しました。午後は、坂上先生により眼球運動とその脳内機序についての講義を受けた後、坂上先生自身の研究もご紹介いただき、講義内容の理解を深めることができました。小口先生により光遺伝学や化学遺伝学といった遺伝子組み換え技術による神経回路の選択的な操作に関する講義をしていただきました。

3日目は、小口先生よりカルシウムイメージング法に関する研究紹介をしていただき、実験機材を見学しました。その後、細胞外記録法による神経活動の見学もさせていただきました。対象とする神経細胞の同定方法や電極を制御できる装置の操作方法を紹介していただきました。

トレーニングコースは普段の研究では体験することができない実験の現場を体験する機会を与えてくださり、今後の研究を進める上で非常に貴重な経験となりました。先生方やコースメンバーとの交流により、研究の視野を広げることができたと同時に、まず自分の研究テーマに関する技術、知識を深めたいと気持ちを新たにしました。トレーニングコースに携わっていただいた皆様に心よりお礼を申し上げます。

(早稲田大学 原 修平さん)

ヒトのfMRI基礎実習コース

私は、今の体験にありのままに気づくマインドフルネスという心の使い方が、うつ病や不安症を改善するメカニズムを研究しています。普段は、注意課題や脳波を使って研究していますが、マインドフルネスがもたらす特性的な変化は、より脳深部の変化と対応しているのではないかと考え、将来MRIを使った研究をするために本実習に応募しました。

1日目は、自分たちがMRIに入って測定されるとともに、測定者としての実習もしました。安静時の脳機能ネットワークを見ることが目的だったため、特にタスクはなく、合計10分ほど安静にしていました。測定の手続きをなぞり、測定自体はそれほど難しくはなさそうだ、ということを知れたのは1つの収穫でした。そのあとに、松田先生よりMRIの原理に関する講義がありました。その精緻な仕組みに感動するとともに、よく見るfMRIのActivation mapは、脳の活動それ自体ではなく、モデルに依存する統計値であるというお話があり、普段論文を読んでいるのに、わかったつもりになっていた自分に気づきました。

2日目は、松元先生の講義に始まり、脳の解剖的な知見を学びながら、脳科学の長い歴史を感じることができました。その後、松田先生より近年盛んに研究されている、安静時のfMRIの講義をいただいた後に、自分のデフォルトモードネットワークを解析して見てみる実習に移りました。自分のデフォルトモードネットワークが、よく論文で見るのと同じような形で出てきたことに感動しました。また、他の人のと比べても違っていて、安静時の機能的結合が、個人の特性を表すものとして多く研究されてきている理由がわかった気がしました。

2日目後半から3日目にかけて、グラフ理論に基づいた解析をしました。グラフ理論と聞くと、かなり高度な数学が求められるのではと思っていたのですが、先生方がわかりやすく説明してくださったおかげで理解することができ、自分でも研究することができそうだと思えました。

最後に、玉川大学で行われているfMRIを用いた研究をいくつかご紹介いただきました。実際に研究する上での苦労話も伺いながら、自分がMRIを使った研究をしていく具体的なイメージを膨らませることができました。

私は3回目の応募で今回やっと参加できましたが、学びが多く、脳科学を志す仲間や先生方とも知り合うことができ、非常に有意義でした。本当にありがとうございました。

(早稲田大学 高橋 徹さん)

乳幼児の脳波計測の基礎コース

私は、乳幼児の意識研究を行っています。ことばを話せない乳幼児の意識の指標として、脳波を計測することは有効であると考え、乳幼児の脳波計測について学ぶために、玉川脳科学トレーニング・乳幼児コースを受講しました。以下、1日目、2日目、3日目の順に、活動を振り返ります。

1日目は、「乳児の脳波計測研究の基礎」を学びました。乳児の脳波を計測するために必要な、「アーチファクトの排除」や「乳児の頭囲測定方法」、「皿電極の設置方法」を確認しました。乳児の実験はうまくいかないことが多い(泣いてしまうなど)ので、できるだけきれいなデータを得ることが大切であり、そのためにアーチファクトが入らないようにするための工夫・技術を学びました。また、乳児の人形を使って、頭囲の計測と電極を付ける位置(10-20電極配置法)の確認、頭部の模型を使って、皿電極の設置練習を行いました。

2日目は、「乳児の脳波計測実習」を行いました。3組の乳児に実験参加していただき、脳波計測を含む乳児研究の一連の流れを確認しました。授乳への配慮や保護者との交流など、実験以外にも気を配ることが必要であること、乳児の気分によって、実験の進み具合が変わること、時には実験が行えないこともあり得ることを学びました。実習としては、乳児と保護者との交流と、乳児の頭囲測定、皿電極を設置する準備、脳波・乳児の観察を行いました。

3日目は、「乳児の睡眠時脳波の分析」を学びました。乳児の脳波の分析方法や睡眠時脳波の読み取り方を学びました。睡眠の段階が変わる時に、体が動いたり、脳波が一瞬少し乱れたりすることを確認しました。また、乳児研究をする際に、脳波計測の他に、選好注視や期待違反、馴化・脱馴化があり、視線計測も有効であることを確認し、脳波計測(脳波計)と視線計測(アイトラッカー)の同時利用について議論をしました。参加者は、それぞれ違ったアプローチ方法をしているので、議論を深めることができました。

お忙しところ、運営・ご指導いただきました先生方、お手伝いしていただいた大学院生の皆様、実験にご協力いただいた保護者・乳児の皆様に、心より感謝申し上げます。

(京都大学 渡部 綾一さん)

社会科学実験入門コース

私は、時間制約および経済制約下における食事選択の課題を解明することを目標に研究を進めています。これまでは主に統計分析を行ってきましたが、最近では視線計測や脳活動計測といった生体情報を取り入れた研究に着手しており、研究手法について知見を深めるために社会科学実験入門コースに参加しました。

1日目は、金成先生より瞳孔計測を用いた既存の研究についてご説明いただき、その後、被験者として実験室にて瞳孔計測を行いました。瞳孔径は明るさによって変化しますが、社会性や一時的な記憶活動によっても変化することをご教示いただき、また扁桃体との関係についても勉強させていただきました。そして、ご教示いただいた内容をもとに、実際に実験室にて瞳孔計測を行いました。瞳孔計測中に提示したい写真を自分で選択し、その写真を見ているときの瞳孔計測および結果の確認を行いました。

2日目は、午前中に高岸先生より「社会科学と神経科学」というタイトルで、既存研究や高岸先生の研究室で行なってきた研究についてご説明いただき、午後は後藤先生のご指導の下、クラウドソーシングを用いて、公共財ゲームという社会科学実験のプログラムの作成を行いました。高岸先生の講義では、向社会的行動を測定する経済ゲームの実験内容についてご説明いただきました。研究内容についても大変勉強になりましたが、論文だけではわからない被験者のサンプリング方法や実験スケジュールなどについても具体的にご教示いただいたことが印象的でした。続いて、後藤先生より社会科学実験のプログラムの作成方法の説明を受けた後に、実際にプログラミングを行いました。クラウドソーシングは低コストで大規模データを収集できるため、今後、分野を問わず取り入れられるアプローチだと思いました。

3日目は、高岸先生より経済ゲームにより測定される社会性や利他性と脳活動、そしてオキシトシン受容体遺伝子との関連についてご説明いただいた後に、10名が同時に実験に参加できるブースが完備された実験室を拝見し、実験に参加させていただきました。所属の研究室以外でヒトを対象とした実験を拝見したことがなかったため、貴重な経験になりました。

3日間を通して、大変勉強になる貴重な時間を過ごさせていただきました。今後、社会科学実験入門コースで学んだ内容を、自分の研究にどのように活かしていくかが課題だと感じています。最後になりますが、お忙しい中、ご指導いただきました先生方、ポスドク・大学院生のみなさま、誠にありがとうございました。

(東京農業大学 玉木 志穂さん)

Jam Session 〜分野を越えて思考の調和を奏でよう〜

3日間の実習の2日目の夜には、JAMセッションが開催されました。分野の異なる参加者約5名のグループに分かれ、1つの問いに対して熱く議論をした後、全体発表を行いました。私たちの班には、心理学の方、数理の方、哲学の方など、広い分野の研究者や学生が集まっていました。

今回の問いは、「異なる時点の利益に対する選好の逆転は何のために起こるのか」というものでした。今日小さい報酬をもらうか、明日大きい報酬をもらうかを選べるのであれば、我々は目先の小さい報酬を選びやすくなります。しかし同じ1日違いでも、30日後の小さい報酬か31日後の大きい報酬かとなれば、31日後の大きい報酬を選びたくなります。この選好の逆転が進化的にどのような役割を持つかを考えよ、という難題が与えられました。
議論の序盤は、数理寄りの人が方向性を牽引していました。割引率などの理論的背景を、専門外の方に説明することで、全員の前提がクリアになったように感じました。議論が進むと哲学の方から、将来にわたっての最大利益を目指す「自己利益説」と、現在時点の自己の利益のみを追求する「現在目的説」という興味深いキーワードが出てきました。この2つが対立し倒錯するという見方は、割引率に相当するのでしょうが、数理の世界とは別のところに似て非なる大きな世界が広がっていることが感じられました。最終的には、全員で話し合ったイメージを元に、数理の言葉で整理していくという共同作業が行われたのも印象深かったです。

普段は同じ分野どうしの議論が多いですが、同じ分野であれば当たり前の前提を曖昧にしたままであったり、また時に、共通の「分からなさ」さえも暗黙の了解に含んでいたりすることに気付かされました。議論の中で共通の「分からなさ」にぶつかった時に、進化や意識、個人差といった上位概念を一度迂回してから、「そうなると分かりませんよね」と逃げてしまっていることがあるのではないかと。しかし、専門外の人との議論になると、それでは本質的な答えになっていないということをありありと突き付けられたように感じました。分野も用語も異なるメンバーでお互いの「当たり前」を超えて1つの問いに対して取り組むことで、真に問いの答えになる解とは何かと考え抜くことができました。
最後になりましたが、ご指導いただきました先生方、大学院生・スタッフの皆様に、感謝申し上げます。誠にありがとうございました。

(大阪大学 佐藤 那由多さん)