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玉川大学脳科学トレーニングコース2022が開催されました

2023.02.16

2022年6月9日(木)から6月11日(土)の3日間にわたり、脳科学研究所において、「玉川大学脳科学トレーニングコース2022」が開催されました。このトレーニングコースは、脳科学の発展と普及を目的として、脳科学を志す学部学生、大学院生、若手ポスドクを対象に、学際的な研究手法の基礎と応用を実習で学んでもらうことを目的としています。
第11回目となる今回のトレーニングコースでは、4つの実習コースに全国から計43名の応募があり、書類選考の結果14名が受講されました。

実習コース

1.げっ歯類を用いた脳システム研究法コース(受講4名)

担当:田中康裕、フランシスクス・アガハリ

2.ヒトのfMRI 基礎実習コース(受講4名)

担当:松田哲也、松元健二、田中大貴、大澤美佳、金城卓司

3.社会科学実験手法コース(受講4名)

担当:高岸治人、田中大貴、後藤 晶(明治大学)

4.霊長類霊長類の行動・神経科学実習コース(受講6名)

担当:鮫島和行、武井智彦、小口峰樹、坂上雅道

受講者の皆さん、3日間の実習お疲れさまでした。今回の脳科学トレーニングコースにより、一人でも多くの受講者が将来の脳科学の担い手となって活躍してくれることを心から期待しています。

  • 主催 
    玉川大学脳科学研究所
  • 共催 
    玉川大学大学院脳科学研究科

受講者の声

げっ歯類を用いた脳システム研究法コース

私は、これまでガラス電極を用いた細胞外記録を主な研究手法として、研究に取り組んできた。今回、トレーニングコースに参加しようと決意したきっかけは、近々取り組む予定であるパッチクランプの基礎を学べることやニューロピクセル電極などのような多点電極を用いた電気生理学的実験方法や解析に興味を持っていたからである。

コースでは、神経科学の歴史やパッチクランプの原理、ニューロピクセル電極についての講義があり、アンプの作動原理やニューロピクセル電極の実験系などについて学ぶことができ、理解が深まった。パッチクランプの実習では、スライス切片の作製からギガシールの形成、ホールセル記録へ至る際に膜電流がどのように変化するか、またニューロン活動の記録を実際に見学することができ、今後の実験の参考になった。また、ニューロピクセル電極を用いた実習では、開頭手術の実演や実際にニューロピクセル電極を用いて麻酔下のラットのニューロンの活動記録の様子を見学した。電極を刺入すると早速ニューロンの活動が記録され、LFP のモードに切り替えると電流が細胞内へ流入するsink や樹状突起付近で細胞外へ電流が流れることで生じるsourceを容易に観察することができた。また、データ解析すると、1時間弱の記録にも関わらず多数のニューロンが記録されており、ニューロピクセル電極で得られる情報量の多さに圧倒された。このほかにも、練習用のダミーを用いて基準電極の埋め込みやArduinoを用いた行動課題用の簡単なプログラミングなどを体験でき、3日間という短い時間だったが、とても濃い時間を過ごすことができた。

本コースは、新型コロナウイルスの影響により3年ぶりの現地開催だった。細々した実験手技や創意工夫が凝らされた実験環境を間近に見ることができ、現地参加でしか得ることができない体験を沢山できた。また、神経科学を志し、様々なアプローチで自らの研究課題に取り組んでいる同世代との学生とも交流でき、今後の研究に対するモチベーションが大いに高まった。最後にこのような厳しい状況の中、現地開催で本コースを開講してくださった玉川大学脳科学研究所の皆様に感謝申し上げます。

(東京大学理学系研究科 荒井佳史さん)

ヒトのfMRI 基礎実習コース

私は、心理療法の一つである箱庭療法の治療的機序について、精神生理学的手法を用いた研究を行っています。将来的に、脳―心―身体のつながりから箱庭療法による治癒の基盤へアプローチができるようfMRI 実験の基礎を学びたいと思い、「ヒトのfMRI 基礎実習コース」に応募しました。

1日目は、早速参加者4名がMRIによる撮像を行い、resting state fMRIのデータを取得しました。その際は、実験参加者役と実験者役を交互に行い、fMRIの中では意外と作動音が大きいこと、圧迫感があることを身を持って体感することができ、実験参加者にどのような配慮が必要かを具体的に学ぶことができました。後半は、松田先生に講義をしていただき、MRIのメカニズムや実験デザインの方法について理解を深めることができました。

2日目は、松元先生より脳解剖に関する講義、松田先生よりresting state fMRIに関する講義をしていただきました。特にresting state fMRIについて、1日目の実験の段階から安静時の脳活動を測って何がわかるのか?は素朴な疑問としてありましたが、講義を受けた後はその意義について合点がいきました。後半は解析用PCのセットアップからresting state fMRI解析まで行いました。序盤からエラー表示と格闘しながらも先生方やスタッフの方々のご助力もあり、安静時の賦活マップを表示させるまで辿り着くことができました。

3日目は、田中先生からグラフ理論について講義をしていただきました。グラフ理論という難しそうな名称に一瞬身構えましたが、とても分かりやすく教えていただきました。その後、GraphVarを用いて、機能的結合とグラフ理論の指標の関連など、実際に統計解析を行いました。

今回の実習を通して学んだことは、fMRI実験が自分の研究、ひいては臨床心理学分野の研究でどう活かせるのかの問いを進める糸口にもなり、とても有意義な時間であったと感じております。最後になりますが、お忙しい中ご指導をいただいた先生方、スタッフの方および関係者の皆様に深く感謝を申し上げます。

(香川大学大学院医学系研究科 山村裕大さん)

社会科学実験手法コース

私は、認知心理学の分野で研究をしています。認知心理学では基本的に1人ずつ被験者が参加します。一方、社会心理学では複数人の被験者が同時に実験に参加します。そこで、私は普段学んでいる一人ひとりに着目した認知心理学と複数人で実験を行う社会心理学の関連性に興味を持って、当コースに参加しました。

1日目の初めはオリエンテーションの後、社会心理学実験を被験者として体験しました。個室とパソコンが用意された実験室へ移動し、他の参加者の方々と経済ゲーム実験を行いました。ゲーム内の仮想のお金を相手とやり取りする中で全員が協力的に動くのか、それとも誰かが裏切って自分の利益を優先するのか、経済ゲーム中は緊張感がありました。その実験には社会科学実験用プログラムoTreeを用いており、実験後に田中先生から実験プログラムの内容を教わりました。また、実験を行う際に被験者の回答状況をモニターする様子を見ることができました。被験者として実験を体験したことで、2日目のoTreeのプログラムの実習をより深く理解できました。

2日目は、後藤先生からoTreeでプログラムを書く実習を受けました。簡単なアンケートページの作成から徐々にステップアップ形式でプログラムの書き方を学び、コース終了後に一人でもoTreeでプログラムを書けるようになりました。オンライン実験はインターネット上の見えない被験者に対して行うため、被験者の方々が実験内容を理解できているかの確認や使用する端末の違いなどにも細やかに気を配って実験をデザインする必要があることを知りました。実習の次に、高岸先生から社会神経科学の研究手法についての講義がありました。

高岸先生の研究は、自己の利益よりも他人の利益を優先する向社会的行動についてです。向社会的行動は直感的に行われるのか、それとも熟慮的に行われるのかは、性善説・性悪説にも通ずる興味深い研究テーマです。講義内容として、まず公共財ゲームにおける決断時間が短い程、向社会的行動が多く見られたという先行研究などの周辺知識を学びました。そして、向社会的行動の個人差について調べた高岸先生の最新の研究成果を解説して頂きました。

3日目は、高岸先生からホルモンと遺伝子多型が社会性にどのように関与するかについての講義を受けました。ホルモンの一種であるオキシトシンは他者への信頼を強めることが分かっています。一方、ホルモンは受容体に結合することで作用するため、オキシトシン受容体遺伝子の多型も信頼行動に関与することを学びました。

講義を通して、経済ゲームを用いた行動実験・MRI 解析・ホルモン解析・遺伝子解析といった多角的な視点から、社会性の生物学的メカニズムを明らかにする高岸先生の研究手法を伝授して頂きました。また、こんなにも多くのことが社会神経科学で明らかになったのかと初学者ながら感動致しました。

コース全体で終始、先生方や大学院生の方々の「参加者に研究手法を伝えたい。理解を促したい。」という思いを強く感じました。非常に楽しく、学びの多いコースでした。コース中の資料やメモは私にとって大切な宝物です。私たち参加者のために、トレーニングコースを開催してくださったこと、時間を割いて準備をして頂いたことに誠に感謝しております。ありがとうございました。

(東京理科大学 後藤啓嗣さん)

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