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脳からオノマトペの理解へ迫る-音象徴※1はどのように脳内で表現されるか?-

2014.05.23

玉川大学脳科学研究所(町田市玉川学園 6-1-1 所長:木村 實)松田 哲也 准教授、岡田 浩之 教授らは、慶應義塾大学 今井 むつみ 教授、加根魯(かねろ) 絢子(じゅんこ)(現:米国テンプル大学院生)らとの共同研究により、オノマトペの脳内処理過程を明らかにした。

通常ことばは、音と意味が直接関係のない記号であるが、オノマトペは、その音から意味がイメージできる記号である。このような音と意味との直接的な結びつきを音象徴と言う。言語のはじまりでは、ことばはすべてオノマトペのような音象徴語であったという可能性も広く論じられている。子供がことばを覚えるときにも、オノマトペは重要な働きをする。オノマトペはスポーツなどの コーチングにも有効であり、人の心により直接働きかけることも指摘されている。しかし、オノマトペが脳内でどのように働くのか、音象徴を持たないことばとどのように違うのかということはこれまで解明されてこなかった。

今回の研究では、fMRI※2により脳活動を測定することで、オノマトペが理解されるときの脳内活動を検証した。実験では、人またはキャラクターが歩いている動画と「よたよた」「ぎざぎざ」「あるく」「すばやく」等の語を被験者に提示し、その動画と単語がどれぐらい一致しているか判定を行った。実験1では「動き」と動きを指し示す語(音象徴をもつオノマトペと音象徴をもたない動詞、副詞)を提示し、オノマトペの処理に特異的に関わる脳領域を同定した。動きを表すオノマトペ以外でも、実験1で発見されたオノマトペ特有の脳活動が見られるかどうか確かめるため、実験2では「動き」のほかに「形」のオノマトペ(例えば「ギザギザ」)も含め、動き、形、触覚、感情など複数の概念領域においてオノマトペの処理に共通して活動する脳領域を特定した。

その結果、(1)音象徴は、側頭葉後部と頭頂葉が連合する上側頭溝後部(じょうそくとうこうこうぶ) (pSTS)と呼ばれる部位の右半球側が特異的に処理に関与していること、 (2)そこにおいて音象徴を持つことばは、言語の音として処理されると同時に、環境音としても処理されることが示唆された。音象徴性を持たない動詞や副詞を提示された場合には、右pSTSの活動は見られず、言語の音の処理を担う左pSTSのみの活動が見られた。つまり、オノマトペは脳内で言語記号であるとともに、環境音のなぞりとしての両側面を持っていることが示された。

今回の研究は、オノマトペがもつ音象徴のメカニズムを脳機能イメージングにより示した、世界で最初の研究成果である。

本成果は、科学雑誌「PLOS ONE誌」オンライン版に2014年5月19日に掲載された。URLは以下のとおり。
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0097905

1.研究の背景と目的

これまで古典的な言語学において、ことばの音(例:「り・ん・ご」という音)とその意味(例:りんごという存在)は関係がないものと考えられてきた。しかし、昨今の研究において、擬音語・擬態語のように感覚で理解できる「音象徴語」があることが示されてきた。これらの音象徴語の意味は、老若男女が、話せる言語に関わらず、直感的に理解できることがわかっている。

音象徴語は、他の単語に比べて抽象度が低いと考えられるため、言語進化における初期のことばに近い可能性があり、言語がどのように生まれたかを理解するヒントになる可能性が指摘されている。また、その抽象度の低さゆえ、音象徴語は、ことばを学び始めた乳幼児にも意味の理解がしやすく、言語発達の足がかりになるのではないかとも言われている。実際に、乳幼児も音象徴に敏感なことがわかっており、また、母親が子供に話しかける際にはたくさんの音象徴語が使われている。

音象徴という現象は様々な形で示されてきた一方、「なぜ私達は音象徴を感じることができるのか」という根本的な問いに答えは見出されてこなかった。本研究では、音象徴語を理解する際の脳活動を観測することにより、その仕組みを明らかにすることにした。

2.研究手法と結果

実験1では、人が左から右に動いている映像と動きに関する単語を提示した。使用した単語は、音象徴のある擬態語と音象徴のない動詞と副詞の3種類である。一方、実験2では、様々な形をしたキャラクターが左から右に動いているアニメーションと、形または動きに関する音象徴語を提示した。どちらの実験でも、動画と単語は、音象徴的にマッチしていることとミスマッチしていることがあった。被験者は、動画と単語がどの程度マッチしているか、1~5の5段階で評価した。

課題を行っている際の脳機能メカニズムを明らかにするため、fMRIによる脳活動の測定を行った。実験1では、音象徴語に特徴的な脳部位を特定するため、音象徴語と音象徴語ではない語(動詞と副詞)の脳の活動を比較した。つまり、音象徴語でのみ活動する脳部位を明らかにしたのである。実験2では、形の音象徴語と動きの音象徴語の両方で活動する脳部位を特定するため、2つのコンディションを比較した。

実験1では、右pSTSが音象徴語に特有な活動を見せた。また、実験2では、形と動きの両方のコンディションで、右pSTSが活動していることがわかった。これらの結果により、右pSTSが音象徴の理解に重要な役割を果たしていることがわかった。また、右pSTSは、言語音ではない音(例:動物の鳴き声などの自然音)の理解に携わっていることがわかっており、本研究の結果は、音象徴語が、ことばであると同時に、言語音でない音のように処理される、ことばと音の中間のような存在であることを示唆した。

3.本研究成果と今後の展望

今回の研究は、音象徴が理解される仕組みを明らかにし、言語進化と言語発達の理解を進める重要な結果をもたらした。擬態語のような音象徴語は、言語の一部でありながら、言語音以外の音の側面も持ち合わせる特異な存在であると考えられ、原始言語と現代の言語、乳幼児の初期言語と成人の言語を結ぶ存在の可能性がある。音象徴の研究はまだ始まったばかりであり、抽象性の高い擬情語(例:「わくわく」)や既存の言語の一部ではない無意味語(例:「タケテ」)の理解に、右pSTSどう関わっているか等、様々な研究が今後も必要である。

本研究の成果は、慶應義塾大学との共同研究であり、日本学術振興会科研費、グローバルCOE「社会に生きる心の創成」、私立大学戦略的研究基盤形成事業「人間の心の科学的理解研究の基盤形成」の一環として行われたものである。

  • 1音象徴
    一般的に、ある単語の「音」とその単語の「意味」との関係は恣意的であるといわれている。つまり、りんごという存在が、「りんご」や「apple」といった音で呼ばれることに必然性はない。一方、「ぴょんぴょん」のような擬態語の意味は、直感的に理解できるように感じないだろうか。また、「タケテ」という無意味語を聞いて尖ったイメージを、「マルマ」という無意味語を聞いて丸みを帯びたイメージを思い浮かべる人は多いだろう。このような言語音と意味との間にある意的ではない結びつきのことを音象徴という。
  • 2fMRI
    機能的核磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging;fMRI)のこと。MRI を高速に撮像して、神経細胞の活動に伴う血流動態反応を視覚化することにより、運動・知覚・認知・情動などに関連した脳活動を画像化する手法である。

取材に関するお問い合わせ先

玉川学園 教育企画部
キャンパスインフォメーションセンター
TEL:042-739-8710
FAX:042-739-8723
E-mail:pr@tamagawa.ac.jp


研究内容に関するお問い合わせ先

玉川大学
脳科学研究所基礎脳科学研究センター
准教授 松田 哲也
TEL:042-739-8265
FAX:042-739-8265
E-mail:tetsuya@lab.tamagawa.ac.jp

慶應義塾大学
環境情報学部
教授 今井 むつみ
TEL:0466-49-3503
FAX:0466-49-3503
E-mail:imai@sfc.keio.ac.jp

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