ゲート型量子コンピュータ-実現の理論的限界を解明 ―大規模量子ビット特有の集団的量子ノイズ効果を数理化―

2020.07.10

7月16日 電子情報通信学会・情報理論研究会、7月21日 ID認証技術推進協会で講演

玉川大学量子情報科学研究所の廣田 修(ひろたおさむ)顧問(玉川大学名誉教授 前量子情報科学研究所 所長、中央大学研究開発機構 機構教授 兼任)は、中央大学研究開発機構と連携し、7月16日にゲート型量子コンピュータ実現に理論的な限界が存在することを、まず電子情報通信学会情報理論研究会で初公開します。また、7月21日にID認証技術推進協会が主催する「JICSAP ID認証セミナー」において上記内容を一般市民向けの解説として講演を行います。

電子情報通信学会・情報理論研究会

  • 開催日時:7月16日(木)10:55~17:05 廣田顧問の講演は16:40~17:05
  • 講演題目:ゲート型量子コンピュータの量子ノイズ解析~大規模量子多体系のエラーモデルと実例~
  • 開催会場:オンライン開催

ID認証技術推進協会・JICSAP ID認証セミナー

  • 開催日時:7月21日(火)15:00~17:00 廣田顧問の講演は15:00~16:10
  • 講演題目:量子コンピュータ時代における暗号と認証~耐量子コンピュータ暗号、量子暗号、量子認証~
  • 開催会場:オンライン開催
  • 講演の申し込みについては各主催団体へお問い合わせくださいますようお願いいたします。

講演のポイント

ゲート型量子コンピュータは従来型のコンピュータに比べて飛躍的に優れた計算能力を持つことが理論予測されており、最近のグーグルや IBMの量子超越性の実証に関する議論は、量子コンピュータの実装性能について社会的な関心を喚起しています。 量子コンピュータは大規模な量子ゲートの組み合わせ回路の実現が必須ですが、閾値定理と呼ばれる数学的証明から、古典コンピュータに対するムーアの法則に匹敵する予想法則が示されています。しかし、状況はそれほど単純ではなく、実用に供する量子コンピュータのための大規模量子 CPUの実装において避けることができない量子ノイズに関する現在の理論解析について、 多くの研究者が懸念を表明しています。今回、その懸念を科学的に議論するために、大規模化に伴う量子ノイズの新しい性質を数学的にモデル化し、それらの量子力学的な特異性を直感的に理解する手法を提案することに成功しました。その結果、量子ビット総数が数千を超えると、量子ノイズの新しい性質が出現し、これまで量子ノイズによるエラーを修正できるとされる量子誤り訂正技術が機能しないことが判明しました。この結果の波及効果は大きいと予想されるため、まず、国内で議論を深め、それを踏まえて海外に公開する手法を取ります。

講演内容とその背景

ゲート型量子コンピュータは非常に魅力的な能力を提供することが期待されています。それを現実の技術として実現することが我々の共通の課題です。これまで、理想環境における能力の予測が優先され、実装段階での課題があまり問題視されませんでした。近年、少数量子ビット(50~100)の量子CPU の実装ができるようになっているので、まさに今、その延長線上に暗号解析までの能力を持つ実機が、実現可能かどうかを詳細に研究する必要があります。その最初の課題は、量子CPU の大規模化の際に起こる不可避な量子ノイズの特性のモデル化と特徴の解明です。

量子コンピュータの驚異的な能力は量子力学の特徴を最大限利用することによって可能となります。しかし、現実の環境では量子ノイズによって性能限界が発生します。これまでの設計理論では、その量子ノイズの特性が古典ノイズの量子版(半量子ノイズ)として処理されてきました。すなわち、ランダム・パウリエラーと呼ばれる量子情報のビットや位相のフリップエラーがエラーの主体でした。現在の量子誤り訂正理論はこのような条件下でのみ機能します。実用レベルの量子コンピュータの実現可能性は、このような理論のもとに議論されているのが実情です。計算過程が全ての量子効果を利用するなら、ノイズも全ての量子効果を持つノイズを想定すべきです。本研究は、発生の可能性のある全ての量子ノイズを情報理論的にいかにモデル化すればよいかを考察したものです。本研究では情報理論的な視点からの量子ノイズの分類法を示すため、その中でも最も量子的なノイズ現象である集団的デコヒーレンスの具体的な物理現象を分析して、それらの情報理論的なモデル化の手法を提示しています。そこでは、それらから導かれる新しいエラーを非線形・局所及び非局所相関エラーと命名し、それらが量子誤り訂正理論に与える効果を分析しました。特に、そこでは、量子ビットにエラーが発生する確率が量子CPU を構成する量子ビット数に “依存しない場合”“依存する場合” の分類が、最も基本的問題としてクローズアップされます。量子コンピュータの大規模化に伴う量子ビット数の増加によって、後者のようなエラーが急激に主体的なノイズになります。したがって、現在の量子誤り訂正理論に基づく設計理論は機能せず、現実に期待される諸計算を実行できる大規模量子コンピュータの実現は困難であることが判明しました。これを克服するために量子ノイズ全容解明プロジェクトを立ち上げ、どのようなブレークスルーを期待すべきかを探ることになりました。関心をお持ちの研究者の参加を歓迎しますので、研究代表者に連絡いただければ幸いです。

図 ゲート型量子コンピュータの規模と特徴