世界初!電流変調によるY-00暗号トランシーバ実証に成功

2012.10.02

Y-00暗号トランシーバの小型化へ

玉川大学量子情報科学研究所(東京都町田市玉川学園6-1-1 所長:広田修)の二見史生(ふたみふみお)准教授は、世界で初めて、Y-00(光通信量子暗号)トランシーバの小型化を目指して、電流を変調してY-00暗号信号を作り出す方式を提案し、実験検証に成功した。Y-00暗号は、米国国防高等研究計画局(DARPA)が要請する巨視的量子効果を用いた物理暗号で、現状の通信特性に見合った性能を実現できる有望な物理暗号である。従来、外部変調器と呼ばれる変調器を用いてY-00暗号信号を作り出していたが、外部変調器は比較的サイズが大きいために、小型化が困難であるという課題があった。今回、光を発生するレーザを駆動する電流を直接変調することで、外部変調器なしでY-00暗号信号の生成に成功した。更に、生成したY-00暗号信号品質評価実験として、本学内に敷設してある屋外光ファイバ回線で80キロメートル伝送後の通信特性を評価し、良好な通信特性が得られた。本成果により、従来、ブルーレイレコーダ程度の大きさだったY-00暗号トランシーバを、ライター程度の大きさまで小型化できる見通しが立ち、Y-00暗号による安全な暗号通信の実用化に向け、大きく研究開発が前進した。

なお、本成果の詳細は2012年9月13日(木)、コルシカ島(仏)で開催された国際会議Photonics in Switching (PS) 2012(論文名:Transmission of Y-00 Quantum Cipher from Transmitter using Directly Modulated DFB Laser for Secure Access Networks)で発表した。

今回の成果

玉川大学では、更なるネットワークの利用形態の進展が、通信回線での盗聴の危険性が原因で妨げられることがないように、盗聴できない通信システムの実現に向けた暗号の研究開発を推進している。これまで、Y-00プロトコルによる暗号通信の実用を目指し、Y-00暗号トランシーバ試作等行い、通信特性の評価を実施してきた。今回、Y-00暗号トランシーバの小型化に向け、トランシーバの改良を行った。ライター程度の大きさまで小型化可能な改良試作を行い、本学内に敷設してある屋外光ファイバ回線において、その通信特性を評価した。2.5ギガビット毎秒、80キロメートルの通信回線において、良好な通信特性を実現した。これにより、下図のような通信装置の小型化が強く求められる加入者系などにおいても、Y-00暗号通信の適用の可能性が示された。

資料

背景


現状のネットワークでは、光ファイバ回線で通信される情報は必ずしも暗号化されていない。そのため、光ファイバ回線から信号光を盗み、通信情報を盗み見られる危険性がある。通信情報は数理暗号によって暗号化される場合もあるが、数理暗号は解読の危険性が否めず、大量の重要なデータを伝送する光ファイバ回線で用いることは問題があると言われている。実際、DARPAは5月にギガビット毎秒を超える回線保護の暗号技術の本格開発を提案した。これにより、物理層に物理暗号を導入することは今後のネットワークでは必須の状況となった。本学では、物理暗号のひとつであるY-00プロトコルの理論研究および実験研究をすすめてきているが、Y-00プロトコルの特長は、盗聴者にY-00の暗号文を盗ませない(正しく識別させない)点で、数理暗号と異なり、実装モデルにおいて数理的なアルゴリズムによる解読法がないことや、理想モデルでは原理的に解読不可能性を証明している。既に、40ギガビット毎秒の高速暗号通信、10ギガビット毎秒で伝送距離360キロメートル、1ヶ月にわたる長期運用試験など、Y-00プロトコルの通信システム性能評価実験に成功し、光ファイバ通信システムとの高い整合性を検証している。また、理論研究で示した強い安全性の根拠であるランダム暗号性の検証にも成功している。実用的な物理暗号はY-00プロトコルが唯一の有力候補で、実用化に大きな期待が寄せられている。

これまで外部変調器を用いたY-00暗号トランシーバの開発を行ってきたが、トランシーバの小型化は、加入者系などへの適用に向けた一つの重要な研究課題だった。外部変調器は小型化が困難なので、今回、光を発生するレーザの電流を変調する方法を提案し、本方式のY-00暗号トランシーバを試作し、屋外にある光ファイバ回線を用いて通信特性の評価を行い、良好な通信特性を検証した。

実験検証内容


電流変調方式のY-00暗号トランシーバ(2.5ギガビット毎秒)を試作した。下図に示す本学内に敷設してある屋外光ファイバ回線において、80キロメートル伝送後の通信特性を評価した。暗号鍵のない盗聴者が観測できる盗聴波形(Y-00暗号信号)は信号レベルを識別できないが、暗号鍵を共有する正規受信者は、信号を正しく受信できた。伝送後の信号品質は、大きな劣化はなく良好な特性だった。通信特性(符号誤り率特性)を評価し、定量的にも良好な特性であることを検証した。なお、今回の検証実験では、光増幅器を使用しない加入者系の安価なシステムを想定した伝送路を用いたため、光パワー減衰が伝送距離を80キロメートルに制限した。光増幅器を用いれば、伝送距離の更なる延伸が可能である。