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世界初!米国DARPA要求仕様を満足できる民生用Y-00暗号通信、屋外光ファイバ回線で長期ランニング実験に成功

2012.08.02

玉川大学量子情報科学研究所(東京都町田市玉川学園6-1-1 所長:広田修)の二見史生(ふたみふみお)准教授は、世界で初めて、Y-00(光通信量子暗号)プロトコルで暗号化した暗号信号を、屋外光ファイバ回線(TAMA net #1)を用いてのフィールド通信試験を行い、1ヶ月間にわたり安定な通信動作の検証に成功した。米国国防高等研究計画局(DARPA)は、現状の通信特性に見合った1~10ギガビット毎秒、1,000~10,000キロメートル伝送を実現する巨視的量子通信と呼ばれる巨視的量子効果を用いた物理暗号の開発を本年5月に米国ノースウエスタン大学に提案した。これより、物理層に物理暗号を導入することは今後のネットワークでは必須の状況となった。本学では、それの民生仕様であるベーシックY-00プロトコルの理論研究をすすめてきている。

今回、2.5ギガビット毎秒のY-00暗号プロトコル通信装置の通信特性の評価実験を実施し、本学内に敷設してある屋外光ファイバ回線で160キロメートル伝送後の通信特性を評価し、良好な通信特性が得られた。本実験により、Y-00暗号プロトコル通信装置は、天候変化、気温変化、振動など発生する屋外環境に於いても、暗号通信ができることが検証され、Y-00プロトコルによる安全な暗号通信の実用化に向け、大きく研究開発が前進した。

なお、本成果の詳細は2012年7月30日(月)、ウィーンで開催される国際会議QCM&C2012(論文名:Field transmission test of 2.5 Gb/s Y-00 cipher in 160km (40km x 4spans) installed optical fiber for secure optical fiber communications)で発表した。

今回の成果


玉川大学では、クラウドコンピューティングなど様々なネットワークの利用形態の更なる発展が、安全性不備が原因で妨げられることがないように、盗聴できない通信を実現する暗号の研究開発を推進している。これまでにY-00プロトコルによる暗号通信の実用化を目指し、理論研究と実験研究を行ってきた。実験研究は、Y-00暗号の通信システム特性と暗号強度の評価を中心に行っている。今回、 Y-00暗号プロトコル通信装置の長期安定動作を、より実環境に近い、本学内に敷設してある屋外光ファイバ回線において評価した。2.5ギガビット毎秒、160キロメートルの通信システムにおいて、1ヶ月間にわたり連続して良好な通信特性を実現した。次の資料に成果を詳しく示す。

資料

背景


現状のネットワークでは暗号化されていない情報も通信されており、光ファイバ回線から信号光を盗み、容易にこれらの通信情報を盗み見られることを本学のデモネットワークで実験検証が行われている。一般にデータは数理暗号によって暗号化される場合もあるが、数理暗号は危殆化の懸念があり、大量の重要なデータを伝送する光ファイバ回線で用いることは問題があると言われている。このような背景のため、DARPAは5月に回線保護の暗号技術の本格開発を米国ノースウエスタン大学に提案した。これより、物理層に物理暗号を導入することは今後のネットワークでは必須の状況となった。本学では、それの民生仕様であるベーシックY-00プロトコルの理論研究をすすめてきている。本Y-00プロトコルの特長は、盗聴者にY-00の暗号文を読ませない(正しく識別させない)点であり、数理暗号と異なり実装モデルにおいて数理的なアルゴリズムによる解読法がない。また、ノースウエスタン大学開発の理想モデルでは原理的に解読不可能性が証明されている。既に、40ギガビット毎秒の高速暗号通信や10ギガビット毎秒で伝送距離360キロメートルなど、Y-00プロトコルの通信システム性能評価実験に成功し、光ファイバ通信システムとの高い整合性を検証している。また、理論研究で示した強い安全性の根拠であるランダム暗号性の検証にも成功している。実用的な物理暗号はY-00プロトコルが唯一の有力候補で、実用化に大きな期待が寄せられている。

実用化を視野に入れると、実験室内の通信特性評価のみならず、より実環境に近い屋外にある光ファイバ回線を用いた通信特性評価が求められる。今回、本学内に敷設光ファイバ回線で通信特性評価を行い、良好な特性を検証した。

実験検証内容


Y-00暗号プロトコル通信装置の通信特性を、本学内に敷設してある屋外光ファイバ回線において、1カ月間にわたり評価した。2.5ギガビット毎秒のY-00 暗号信号を、全長160km(1スパン=40km、計4スパン)の屋外光ファイバ増幅中継伝送路 図(a)を伝送させた。伝送後、Y-00プロトコル受信機を用いて伝送特性を評価した。図(b)に示すように、12時間連続して観測した暗号波形(Y-00プロトコル)および正規受信者が受信する波形は、良好な特性だった。1カ月間にわたり、通信特性(符号誤り率特性)を評価した結果を図(c)に示すが、昼夜、天候を問わず、通信に十分な伝送特性(符号誤り率が10-9未満)だった。なお、伝送距離160kmは今回準備した実験装置(光増幅器)の数で制限されており、伝送限界ではない。

(a)屋外光ファイバ回線増幅中継
(b)信号光波形(12時間測定)
(c)通信特性(1ヶ月間測定)

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